第3話

 すっと屋根から降りようとしてしりもちを盛大につく。


「あだだだ」

『鍛錬不足だ、馬鹿』

「ですよねー」


 村から見て一番北東に行った、誰からも死角になっている男のところまで忍び足で近づく。


(この姿勢つっら)

『スクワットをして大変つらいというようなものだ、阿呆』


 お宝探しに躍起になっている部下を確実に狙える距離まで忍び込んでから、おきつねダッシュ!!

 部下の胸を防具ごと突き刺す! これは死ぬな!


〈敵を倒しました。経験値40ポイントを授与します〉


『久しぶりに聴くな、この声も』

「40年ぶりだねえ」

『嘘を言うな。お前が長年鍛錬していなかっただけだろ』


 さて

「何に配分しようか? 筋力、体力、魔力、意志力、器用さ、素早さ、運、とありますけど」

『素早さ一択だ。全部配分する』

「ちょ、私に決定権が。あー。力がみなぎる」

『あーもう、ポイント変換率が悪すぎる! 瞑想も怠っていたもんな』


 てへぺろ、とウインクしてちょっとベロを出す。


『契約解除するぞ』

「ぴゃー」


 逆効果だったようだ。しゅん。



 略奪集団……賊だな、賊から道具を引っぺがす。おお、回復薬があるじゃないか。


 賊を転がした後は次の機会を狙う。とにかく数を減らさないと。


 その次の機会は遠くへ行った賊。牛がいたからねえ。

 2頭引きの馬車で動いていたからまあ一頭は乗せられるんじゃない?

 しらんけど。


 これもやはり後ろからグサリ。チェインメイル装備とは羨ましい。ただまあ軍刀の花草水月かそうすいげつちゃんはちゃんと持てばしっかりと突けるんでチェインメイルじゃ効果がないかな。

 私は着流し一枚だよ。


 それで、バックラーとナイフ、ナイフベルトを入手。どれもほどほどの手入れですが、ラッキー!


〈敵を倒しました。経験値60ポイントを授与します〉


「こいつは強かったみたいだね」

『敵の強さが吸収ポイントと直結するからな。これも全部素早さだ」

「ふえぇ、私が倒したのにぃ」


 さて。


「おい、集結したはずなのにズボラとハナクソはどうした。豚にでもちんぽつっこんでんのか?」

「死んだのかも。ボス、探してきやす」

「いや、殺されたのなら手練れが潜んでいる。分散するとお前らも死ぬぞ。俺は負けないがな! がはは」

「ボスの知力は世界一位!」

「がはは」


 どうしようかなあ。あと2匹残ってるのがすごい邪魔。今突撃して1匹殺してもあの1匹残ってる。ゴブリンみたくどうしようもなく馬鹿じゃないしなあ。


 奴らは集まって周辺を警戒し出した。


 んだけど。


 奴隷牢屋の監視がほぼゼロになった。


 奴隷牢屋に忍び込む。鍵が勿論かかっている。鍵はボスあたりが所持しているんだろうな。無理に壊すと音が出るし。解錠道具は持ってないんで。


「魔術・初歩解錠」


 カチャリと音がする。アラームも設置されていないようだ。


「よっし開いた。初歩の鍵しか使っていないと思ったんだよね」


「んーんー」


「その目はハイ・エルフちゃんね。今切るから待ってて。さるぐつわの紐部分は鎖か。さっき拾ったナイフに魔孔剣まこうけんをかけて……」

 ナイフが魔力を帯び鎖が切れる。ふっ、私の実力を見たか。

 私は魔力を道具に込めることが出来るのだ。

 まこーけんって名付けている。


「手足もやってもらいたいのじゃが……」

「あ、はい。忘れてなんかないですよ、ホントホント」


 スパスパっと。


「ありがとう。話を短くするぞ。手から強力な火炎が出せるぞ。ただ撃てるのは今の体力じゃ一発なのじゃ」

「そっか、じゃあ私の後ろからあのボスを消しカスにする強さは出せる?」

「だせる! 手の方で火の玉を練るから少々時間がかかるのじゃ。10秒だけボスとわらわのラインを一直線につなぎ続けてほしいのじゃ!」

「わかった!」


 といってすぐには飛び出さない。雑魚が2名まだいるからだ。このまま略奪馬車の物陰から出たら確実に怪しまれる。

 そうだな、そうだ。


 私は素早く……はないけど、壁を這って屋根に上り、雄たけびの声を上げる。


「ウラー!」


「いたぞあの野郎! くそ、屋根に上られちまうと、こっちが屋根に上る際に攻撃されちまうから遠距離がないと無理だ!」


「大丈夫、そっちに――」


 狙いを定め飛び降りる。


誠剣せいけんとつ――降りてあげる」


 誠剣はかけたけど、剣を逆手にもって脳天めがけて落下しただけかな。でも剣技ぱわぁはでる。今なら命中補正かな。


 大ぶりの軍刀である花草水月は飛び降りた勢いそのまま雑魚……C? に襲い掛かる!


 焼き鳥のように串刺しになった雑魚C。即死だねえ。

 それから、串を外すように剣を引き抜く。


「隙ありすぎぃ! 突進からのざん!」


 あまりにも凄惨な光景に動きが止まっていた周囲、そのすきを狙って部下D? に切りかかったのだ。


「あぶねぇ!」


 一撃目は払われてしまった。しかし体勢は崩したし私には素早さがある。


「高速三連突き!」


 突きの三連撃。精度はないがとにかく早い! なんかいろんなところに刺さってDはリタイアだー!


〈コンボボーナス:経験値を150ポイント手に入れました〉


「久しぶりのコンボボーナスだーうほうほ、何に使おう」

『そのうほうほだよ、ボスとの対格差を考えろ』


 ふおおお、体力に注ぎ込んだのか活力が湧いてくる。あのボスとならいくらでもやりあえそうだ。持久力もついたぞ。



「このくそがああああ! 俺様を誰だと思ってる!?」


「ただのうんこ」


「うおあああああ!」


 ボスが物凄い勢いで突進してくる。ぐるぐると追いかけまわさせ、いい感じにハイエルフと一直線にさせることに成功。


 さあ10秒


「うんおらっ」


 モーニングスターの一撃はバックステップ回避。バックステップはあまりできないな。


 9秒!


「動きが散漫だよ、そい」

 魔孔剣を使用しての片手斬り。足に少しダメージ。ただ怒りのためかほとんど意識が向いていない。




 6秒!


「【パリィ】っ。っぐー、めっちゃ体がしびれる。バックラーいかれた」

「うがあああ!」


 3秒!

「【タックル】。あと数秒ううう」

「このあじゃあ!」


 上半身へ思い切り叩きつけを食らう。

 背骨じゃなくてよかったけど、鎖骨当たりの骨を持っていかれた。

 たたき付けの衝撃が凄く、思わず地面にひれ伏す。

 ダウンしたけど、ダウンしたけど……。


「それでも立つんだよぉ! きつねをなめるなあ!」


  その時だった。


 とんでもない熱量を持った赤いエナジービームが私の頭上をかすめていった。


 どさりと倒れるボスの下半身。


〈コンビボーナス:双方に経験値300ポイントが手に入りました〉

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