新生Don't mind 02
パーティが今の体制となって、初のAランクの仕事が舞い込んできた。
名誉な事に、連日猛威を振るっている“水神さま”の攻略への参加だった。
主に執聖騎士団が対処に当たっているが、民間のパーティにも応援の要請がされていたのだ。
このパーティが“バティンお掃除隊”だった頃の功績を買われたのだが、それを思えば彼女との絆もまだ切れていないのだと、メルクリウスは感慨深く思った。
水神さまにある程度の損害を与えれば“Don't mind”の社会的評価も上がる事だろう。
メルクリウスに野心はないが、金は幸福の有無を左右する。エドワールやジェイ達、大切なメンバーには、やはり楽をさせてやりたい。
遠くの空を我が物顔で泳ぐ水神さまへ向かって、一目散に車を走らせていると、地元民と思われる群衆に取り囲まれた。
一人一人、剣、槍、斧……それぞれに武器を携えている。
水神さまを守る殉教者達であるのは明らかだ。
メルクリウスらは直ちに車から降りた。
「ランツェ!」
先手必勝。
メルクリウスの杖先から雷光が真っ直ぐに延びると、漁民の一人を直撃。
喉が裂けるような断末魔と共に、犠牲者の全身が焼損、黒煙を上げて炎上した。
民間のパーティには正当防衛が認められる。召喚事件では、召喚者への対処も要求される以上、致し方の無い所だった。
彼のもがき苦しみ、のたうち回る様が合図となった。
殉教者達が気炎を上げてメルクリウス達に襲い掛かる。
「サイレント・グロー!」
エドワールが杖を水平に振るうと、突然、群衆の何人かの上半身が沸騰、爆ぜた。
不可視ではあるが電磁波が襲い掛かり、彼等を構成する分子を振動させた、殺人光線だった。
「さすが、エドワールだぜ!」
手放しで褒め称えるメルクリウスの懐へ、予想以上に敏捷な男が踏み込んできた。
「アニキあぶないっ!」
メルクリウスが冷静に半歩退いたと同時、ウォルフガングが躍り出て、
右フックをガードされるが、しかし、ウォルフガングは男の脇腹に蹴りを叩き込んでいた。
崩れ落ちた男の脳天を、鉄槌のような一撃で叩き潰した。
トドメは確実に抜かり無く。潰すなら断然頭部が良い。意識が残っていたら、魔法で自爆されるかも知れないのだ。
「ワン公もナーイス! 愛してるぜ、お前ら!」
「気色悪いよう!」
「うるせ!」
屈託無く笑い合いながら、メルクリウスは再び雷光の槍を投じ、エドワールはエネルギーを収束させた剣で雑魚どもを切り払ってゆく。
「アクアーー」「
ジェイの弓が、後方でメルクリウスを狙っていた魔術師の喉を刺し貫いた。
敵対者が行った魔法の詠唱に反応して最速の矢を放ち、阻害する狙撃術だ。
「皆、“ヒンメル・フランメ弐式”の時間を作ってくれ!」
メルクリウスの要請に、まずウォルフガングが応えて彼を守る。
エドワール&ジェイの兄弟が、敵後衛を撃ち殺して援護。
メアリーの加護により、メンバーは次々に身体能力を強化される。
ーーオレは、本当にいい仲間を持った。
「我が想い、ここに束ねん」
メルクリウスが詠唱を始めた。
「ミリア、お前は逃げるんだ!」
「そんな、あんただけ置いていけない!」
「お前まで死んだら、メリルは誰が育てるんだ! 頼む、お願いだ、彼女だけは助けーー」
夫婦らしき敵を、メンバー達が斬って、刺して、“倒した”。
命乞いをするくらいなら、最初からテロなど起こすなと、メルクリウスたちは思った。身勝手にも程がある。これは正論だ、と。
「真理を統べる天の炎よ、巨悪にふりかかり、我と友を護りたまえ! ヒンメル・フランメ弐式!」
メルクリウスは、この詠唱をカッコいいと自画自賛している。即物的な詩歌が、逆にオレの純朴さを表しているではないか、と。
文字通り、津波のような質量感のある炎が空から敵陣に落ちてきた。
1、2、3、4、5、6、7、8秒……しつこく纏わり付く炎に肌を、肉を食われて、殉教者達は生きたまま焼かれる。みっともなく転がり、のたうちまわる。
「あぁあアぁあアァァア! 水神さまぁあアァァア!」
「水神さま、助けて、熱いよ、苦しいよ、助けてぇええェ!」
団子虫のように丸まった、生焼けの死体が次々に出来上がる。
やはり、最後のキメは主役の最高の技でなければ。
皆に支えられて、水神の手先を沢山“倒した”。
メルクリウスの足元に、焼けただれた半死体がすがり付く。
「痛い、苦しい、熱い、おねがいだ、ころして……」
メアリーが、歩み寄る。
「治して、捕まえない? 情報を聞き出せるかも」
「罠だ。殺す。そう言う綺麗事は仲間を危険にさらすから、二度と口にするな」
メルクリウスが、錫杖を鳴らしたが。
ウォルフガングが、迅雷の勢いで飛び込み、その敵の頭を踏み砕いて“倒した”。
「アニキが手を汚すコトはないよ。全部、オイラにまかせて!」
「ワン公、よくやったぞ」
そう言ってメルクリウスは、弟分の頭を撫でた。
「もうっ、子供扱いしてない!?」
「ひゃひゃひゃひゃ、悪い悪い。後で奢るから、パーッと飲みに行こうぜ!」
「マジ!? いくいく!」
「だが、あの水神に景気よく一発ぶちかますまでお預け、だな」
メルクリウスは、真っ直ぐに遠くの猛威を見据えた。
新生Don't mindの躍進は、ここから始まるのだ。
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