第8話 再会?
青を基調とした従士服が支給された。
いよいよ俺は、教国の公僕になったと言う事だ。
紆余曲折、奇妙な道筋ではあったが。
当面俺の上司となる
「テオドール・シュルツだ。よろしく!」
爽やかと言うか暑苦しいと言うか、まあ初対面から馴れ馴れしいテンションなのだが、問題はその顔。
白塗りに近いメイクに、黒い口紅、ガチガチに固めた黒髪。首から上だけを見るとビジュアル系バンドのボーカルか何かにしか見えないが、白を基調とした法衣はまさしく騎士のそれだ。
制服の似合わなさは、フライ准将よりもひどい。着られている以前に、無理やり嵌め込んだとすら言える。
ちょうど三十路だと言うが、俺より5つも年上だなんて信じられない。
「仕事の上では騎士と従士だが、僕も騎士に昇進したばかりの若造だ。若造同士気軽にやっていこう。テオと呼んでくれていい」
「すみません、きっちり騎士シュルツと呼びます」
「律儀だな! そう言うやつは好きだ」
……やはり、俺は厄介払いされたのではないか。
この面倒臭そうな騎士の部下と言うポストに。
そんな事の為に准将自らが俺の相手をするのも不合理だが、そう思わせる策略だったのかもしれない。
「キミの事は聞いている。はっきり言って、戦闘向けな人材ではないな!」
嬉しそうな顔で、はっきり言い過ぎだろ。
「従士は騎士の盾だとか言うやつもいる。
だが僕の隊はそうするつもりはない。誰一人死なせるつもりはない。その為には、キミも無茶をしないよう気をつけてくれ」
……またこのタイプか。
俺は正直、辟易とした。熱血漢もどきだとかニセおバカキャラだとか、もう沢山だった。
決め付けるのは悪いが、信頼だとか友情だとか、そう言うフワっとしたものを実戦に持ち込む奴に対してアレルギーを持ってしまったようだ。
いや待てよ、そんな事より、
「“誰一人”って事は、従士は、自分以外にも居るのですか」
「ああ。あと一人いる。もうすぐ来るはずだが」
結局の所、俺“も”執聖騎士団の従士になった。
「女性とのことだ。僕もまだ会ったことがないが、楽しみだな!」
まさか“彼女”も、この騎士の下に?
あり得ない話ではない。俺と同じ経緯を辿っている同期となると、可能性は高い。
その場合、いよいよ俺の厄介払い説は濃厚になるが。
「あっ、きたよ!」
俺が気配と音を感じるよりも遥かに早く、騎士が唐突に言った。
そうして入ってきたのは。
ストロベリーブロンドの髪をハーフアップに結い上げた、細身の若い女。俺と同じ、青の従士服姿。
ああ、切れ長の目はいかにも気が強そうだ。
似ても似つかないのが来た。
まあ、顔見知りが偶然同じチームに! なんて奇跡は、それこそフィクションの世界でしか起きるまい。
等と考えていると、
「あなた、まさか、アルシじゃあ……?」
切れ長の目を大きく見開いて、俺の顔をまじまじ見つめて来る。
何故、俺の名前を知っている?
俺は、こんな女知らないぞ。
「やっぱりアルシだ。
私の事、知ってるでしょ?」
「いや、知らない」
……女は、唖然とした表情になり、次第に冷ややかなそれへと変わっていく。
「私を忘れた? 本気で言ってるの?」
「知らないって」
他にどう言えと言うんだ。
正直な所、ルックスは好みだし性格は苦手なタイプと言う、絶妙なキャラだ。こんなのが本当に知り合いなら忘れるとは考えにくい。色んな意味で。
少女の時分の幼さを未だ残した面差しが、完全に挑むようなそれになっていて、俺へ食い下がろうとするが、
「仮に知り合いだとしても、上官である騎士を無視したまま私語に走るような奴を、俺は信用しない」
この言葉を突き込んでやると、露骨なまでにはっとした様子になり、騎士へ向き直った。
今の言葉は丸っきり本心だ。魔物との殺し合いを生業にする以上、公私のメリハリをつけられない奴はとっとと帰れ。
だが、
「何をやってるんだ!」
騎士が、俺の頭を無遠慮に叩いた。
恐らくジョークだろうが、何であいつじゃなくて俺の方を。
「そこはだな、ウソでも覚えている風に話をあわせ、情報を引き出して思い出しつつ、更にもう一歩踏み込んでデートに持ち込むところだろう。
せっかくのチャンスを無にしたばかりか、彼女にも失礼だ」
などと耳元で囁いてくる。
恐らくジョークだろうが、こいつも女たらしの類か。また嫌な共通点を見つけてしまったな。
「まあ、アルシ君が覚えてないなら、僕とこの後お茶でもどうかな!」
おい、アンタが職務中にそんな事してたら、俺がさっき女に言った事が無に帰るだろう。
「騎士シュルツ、いい加減ミーティングを」
何で部下である俺がこんな事を言っているのかわからないが、さっさとして欲しい。
俺の同僚になる女は、名をエリシャ・ハートレイと言った。
うーん、やっぱり思い出せん。
ネベロンにある、リマソと言う街の町会議員の一人娘らしい。そんな目立つ家柄だったら、なおのこと忘れそうにない筈だが。
リマソは、昔俺が住んでいた町だったし、出会っている可能性は高い筈だが。
まあ、もしそうだとしても、エピソードが印象に残らなかったのだろう。
当の女は俺が未だに思い出す兆しも見せない事に不満なのだろう。怒りとも期待ともつかぬ表情でこちらをチラチラ見ている。
流石にさっきの俺の正論が効いたのか、遠慮がちだが。それでも俺は、仕事に集中しろと言いたい。
とにかく。
明日早速、任務があるらしい。
俺としてはやるべき事がある。
任務の確認と、この二人の食嗜好の把握。
そして何より、この二人の能力の把握だ。それによって、俺の手持ちの
一応、見向きもされなかったパーティ時代とは違って、俺の魔法が使われるものとして考える。それで大聖堂に就職したのだから。
俺のマジックアイテムがスルーされたなら、次回以降は元パーティと同じ。
解り合う努力を放棄するだけだ。
「明日のブレックファーストは自分が作ります。二人とも、メニューの希望は?」
騎士の方はともかく、女の方は味にうるさそうだ。
全くの偏見だが。
「僕は好き嫌いしないから、何でも食べるぞ!」
「私も。偏食なんてみっともない事しないし」
騎士のリアクションは予想通りだったが、エリシャとやらもそう言う奴か……。
作る側からしたら、そう言うのが一番困るんだよ。
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