8
俺はいったいどうすれば良かったんだろ。
『アロハ』と『愛』と名付けられたその女の体から力が一気に抜けたのがわかった。
ああ
またこの瞬間がきたのか
頭の中でしたその声は自分のものなのかよくわからない。
でも、以前にも感じた事のある喪失感。
自分の心が冷たくなっていく感覚。
「イノ…死んだか?…なら、運ぶ。それは俺の仕事だ…。」
地面を重くすりながら近づいてくる声。
コアか。
意識を取り戻したんだ。
ズリッズリッ
近くなるにつれてコアの呼吸の荒さがよくわかる。
無理やり体を働かせている。
ぐえっ
俺はそばまで来たコアに突き飛ばされる。
と、コアは痛めつけられていない右手をアロハに伸ばし、胸元を力ずくで強くひっぱりあげた。
だらんと垂れるアロハの体。
「ちょっ!」
俺はあまりの扱いに、それを許せず掴みかかろうとした。
が、その瞬間、アロハ掴んでいた右手を離し、先ほどまで体を引きずるように歩いていたとは思えないほどの勢いで、その右手を俺の顔面目掛けて振る。
カウンターのように決まったそれで、俺はひっくり返り地面に思いっきり頭をぶつけた。
視界が一気に暗くなった。
…
…
…。
どれくらいの時間が経ったんだろう。
はっ!?
として体を慌てて起こすと、急に持ち上げた頭がフラッとして視界が揺れた。
少し落ちついてから、頭を揺らさないように辺りに視線をずらす。
大量の血の跡。
そこにはもうアロハの姿はない。
ゆっくりと辺りを見渡す。
シーンと静まり返る村。
そこには誰の姿もなかった。
まだ空は暗いので、皆眠りについたのかもしれない。
俺はずっと放り捨てられていたらしい。
あの様子からすると、誰もハウ様の命を無視できないからかもしれないな。
あれは本当にハウ様だったよな。
そう、ハウ様だった。
今まで信じてきたものはいったい何だったんだろう。
「アロハ…。」
またグッと急に頭を持ち上げてしまい、視界が歪む。
アロハはいったいどうなったんだろう。
立ち上がろうとするんだけど、どうしても力がはいらない。
アロハがどうなったのか知りたい。
ちゃんと弔ってもらえるのかな。
アロハのそばにいてあげたい。
…。
いてあげたい?
両手を地面につき、利き足である右足に力を集中する。
ふんっ!
体は持ち上がらない。
何度も何度も挑戦するんだけど。
俺は立ち上がる事ができなかった。
心が冷えて感じるのと同時に、半身が消えてなくなったような感覚がある。
だから立ち方がわからない。
もうどうでもいいや。
俺は地面にゴロンと転がった。
雲一つない満点の星空だった。
いったいいつから、この素晴らしい空を見てなかったんだろう。
泣けてきた。
自分の人生っていったいなんだったんだろう。
ずっと平和だと信じていた。
疑いもしなかった。
真実を知ることがなかったら、自分の中の平和はずっと守られたんだと思う。
だけど…。
そういう風に生きたいとは思えない。
じゃあどう生きたかった?
ちゃんと真実を知って…
知った所で何ができたんだろう。
俺は無力だ。
閉鎖的な世界で飼い慣らされていたにすぎない。
しかも、自分の生活は民衆の苦悩の上になりたってた。
そんな風に生きたかったんじゃない。
そうまでして生きたかったんじゃない。
もうここでは生きていけない。
コア様を真っ直ぐ信じる事はできなくなってしまったから、コア様の元では働けない。
この中でコア様に従い続けてもいけない。
どうでもいい。
俺はもう二度死んだ。
「アロハ…。」
不意に口から出た言葉。
初めてアロハと目があった時の衝撃。
誰かに傷つけられた姿を見た時の不快感。
初めて声を聞いた時の心地よさ。
名前を呼ばれた時の胸の高鳴り。
アロハは特別な人だったんだな。
今頃気づいても遅かったな。
でも、どうしようもなかったな。
俺は外の世界を知らなすぎた。
本当に俺は無力だった。
やり直したいなぁ。
もし次生まれ変わったら俺はどうしたいかな。
今度はちゃんと自分の力で生きたい。
大切なものをちゃんと自分の手で守りたい。
あと…アロハにだけはまた会いたい。
会いたいなぁ。
涙がボロボロとこぼれていく。
まだ現実感のない世界の真実と、夢の世界にいるような錯覚を覚える掴めそうだと思う星々の虚偽。
俺は自分の人生をここで終えようと思う。
母さん、せっかく産んでくれたのにごめんな。
俺、最後までちゃんとできなかったよ。
ごめん。
村の皆、ごめんなさい。
俺のせいでも苦しませていました。
ごめんなさい。
アロハ。
アロハ。
君を守れなくてごめんね。
神様。
次生まれ変わる時は、俺を強い男にしてください。
誰にも縛られず
自由で
でも大切なものを守りきれるような強さを
俺にください。
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