第23章ー少年と隊長ー20

「法と秩序だ。だが、そんなものは関係ない。ここには、そんなもの無意味だ。あったとしても無駄だ。何せここは他の大陸よりも離れた場所に位置する孤島の大陸だ。法務の連中やら人権団体の連中がここに来ることは滅多にない。それが、この大陸に囚人が送られて来る大きな理由だ」


「――そう、そうだからこそ私はここを選んだのだ。君には私の理想が分かるまい。私の理想は全て祖国にいる親愛なる国王の為だ。それ以外の何ものでもない。私の実験は、きっと上手く成功する。その為には実験を何度も繰り返さなくてはならない。いいや、それが私に課せられた大きな使命だ。この実験は必ず成功させてみせる」


 そう言って年老いた男は己の内に秘めた野心を語ると、揺るぎない瞳で天を仰いた。


「ああ、その為にも俺がアンタに『協力』してやってるんだろ?」


ケイバーはそう答えると怪しくニヤリと笑った。ゲボルザークは、目の前にいる被験体に目を向けると不意に呟いた。


「それにしても本当にここは良い場所だ。実験をするには好都合の場所だ。ヘイズルの次に良い」


 彼はそう話すと被験者の男に、怪しげな赤色の注射を身体に打った。


「どうよ魔導科学者さん。自分の国に他の奴も一緒に連れて帰るか? そこなら好きなだけ人体実験できるだろ。3割安くしとくぜ?」


 ケイバーはそう言って彼に商談を持ちかけた。


「いいや、それはダメだ。祖国には、連れて帰れない。連れて帰ると色々とあとが面倒だ。だからこうして私がわざわざ遠くから足を運んでいるんだろ?」


 ゲボルザークはそう言って答えると、手慣れた手つきで次の段階へと手術を進めた。


「エルグランドの魔導科学者さんはお堅いね。それじゃあ、その話しはやめにするか――」


 そう言って話すと彼は答えた。


「――では、べつの被験体を4体用意してくれ。それをヘイズルに移送してくれれば、君の商談に乗ろう」


「ヘヘっ、アンタも見かけによらずワルだな。別にいいぜ。それはこっちで手を回すから、金はちゃんと用意しといてくれよ?」


「ああ、もちろんだとも。金なら腐る程ある。今さら惜しむ必要はない。商談成立だな」


「ああ、それでいいぜ俺は?」


 2人はそこで怪しい取引を終えると、互いに握手を交わした。

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