第22章ーセフィロトの兄弟ー16

 

「ドレカヴァク。お前はこのまま、永遠の少女の姿で居るがいい。汚れなき花こそ、純粋で愛しいものは無いのだからな…――」


「お兄ちゃま?」


 彼女の前で不意に愛の言葉を囁くと、自分の愚かさに呆れながらふと笑った。そんな彼の言葉は幼い少女には分からなかった。不思議そうに彼の事を見つめると、サマエルはさっきの話をした。


「彼らに素敵な『悪夢ナイトメア』を見る夢をプレゼントしたのさ。熾天使の兄弟達は、私からの贈り物には気づいていなかったが。ガブリエル、あいつは相変わらず勘の良い男だ。私の送り込んだ蛇の術に気づいて、一発で仕留めて術を解いたからな。もう少しであの2人を悪夢の中で苦しめて蹂躪じゅうりんできのにとても残念だ」


 彼は仮面の下で冷たい微笑を浮かべると、彼女にその事を話した。


「まあ、サマエルお兄ちゃまったら天界を覗きに行ったの? 駄目よ、そんなことを勝手にしたらサタナキア様に叱られるわ」

 

「そうか?」


「ええ、そうよ。サタナキア様からの命令が無い限りは『グリゴリ』は勝手な事をしては行けないと言っていたわ。あいつら天族なんて今すぐ天界ごと滅んで死んじゃって欲しいけど……! でも一人でそんな事するなんて危険すぎるわよ!」


 少女はそう話すと彼の身を案じて危惧した。


「ドレカは私の身を案じて心配してくれるのか? 優しいな、キミは…――」


 サマエルは彼女の顔に左手で触れると、そっと人無でした。優しく頬を撫でられると彼女は彼の方を見つめて顔を赤くさせた。


「ドレカは天使も天族もみんな大ッ嫌い。私達やサタン様をあんなひどい目に合わせておいて絶対に許さないわ。でも、あいつらは大ッ嫌いだけどサマエルお兄ちゃまは違うわ。本当よ……?」


「ああ、言わなくても分かっているさ。ドレカ、もっとこっちにおいで…――」


「サマエルお兄ちゃま……」

 

 目の前で両腕を広げると、彼女は彼の膝の上に乗って2人は抱き合った。まるで小さな『愛』を誰にも知られることも無く、密かに育むように。彼らは一時も離れずに常に一緒にいた。

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