第22章ーセフィロトの兄弟ー15

 魔神殿の奥に、青白い炎の明かりが灯る小さな部屋があった。そこに全身を黒尽くめのローブで覆い、顔を奇妙な仮面で隠した長身の男が居た。彼は椅子の上で怪しげな妖術を唱えながら、掌に真っ黒い血で染め天使の白い羽根を握っていた。だが次の瞬間、掌で握っていた黒い羽根が目の前で突如、燃え散った。  


「フッ。しくじったか、他愛ない――」


 彼は掌で燃えた羽根を払い落として、仮面の下で薄笑いを浮かべた。そこに全身を黒い影で覆われた不気味な姿をした小さな少女が現れた。部屋の中に影は入り込むと不気味な笑い声で無邪気に笑っていた。そして、姿と形が見えないまま自由自在に飛び回り。彼の直ぐ側に来るとその姿を現した。


「うふふっ。楽しそうね、サマエルお兄ちゃま。ドレカにも教えてよ、どんなイケない遊びをしていたの?」


 彼女は頭に赤いリボンのカチューシャを付け、艶やな黒髪の巻き髪に、赤い瞳が似合う真っ黒なフリルが付いたレースのドレスを着ていた。見た目から愛くるしいような、可憐で小さな美少女の姿をしていた。悪戯な声で話しかけてくると、彼は彼女の方に視線を向けて優しく話した。


「ああ、ちょっとしたお遊びさ。私が可愛がっていた蛇が死んだが、それよりも面白いものが見えたから良しとしよう。それよりもドレカヴァク、部屋に入るときぐらいはノックぐらいしなさい。誰にだって『イケない』遊びくらい、見られたくないはず――」  


「うふふ、分かったわ。じゃあ次からは、ドレカそうするわ。ねぇ、サマエルお兄ちゃま。一体、何が面白いものが見えたのかしら?」


「ああ、とても面白いものさ。懐かしい古い『友』に私から素敵な贈り物をしたんだ。彼らは気に入ってくれたかな」


「まあ、お兄ちゃまからのプレゼントなんて狡いわよ! ドレカにも同じのちょうだい!」


「これはお前にあげるような良いものじゃない。もっと別のものさ…――」


「何よ、お兄ちゃまのケチ! ドレカ怒っちゃうんだから!」


 そう言って少女は彼の前で怒ると、ほっぺたを膨らませてそっぽを向いた。


「やれやれ……。ドレカこっちに来なさい。頭を撫でてあげるから機嫌を治すんだ」


「ホントぉ!? ええ、分かったわ!」


 そこで機嫌を直すと側に近寄って、自分の頭を彼の膝の上に乗せた。掌で優しく頭を撫でられると、少女は無邪気にニコニコした笑顔で彼に笑いかけた。そのあどけない幼さに、サマエルは誰にも許すことの無い心を彼女にだけ許せた。

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