第22章ーセフィロトの兄弟ー9

 

「兄さん!」


「ああ、ラファエルか……」


「それにガブリエルもここに居たのか。2人して何してるの?」


 ウリエルは後ろを振り向くと彼に歩み寄った。そして、弟の手を取った。その光景にガブリエルの心は真っ二つに割れた。


「何でも無いさ。さあ、行くよ――」


「2人で話してたんじゃないのか?」


「僕は始めからこんな奴とは話して無いさ。僕が心を許すのは、セフィロトの兄弟のみ。お前以外に誰と話すと言うんだ。ラファエル、お前は僕の可愛い『弟』だよ」


 そう言ってウリエルは、優しく彼に微笑んだ。自分に向けた冷たい眼差しが、別のモノに向けている『愛情』の眼差しに、ガブリエルの心はズタズタに切り裂かれた――。

 

「待ってよ兄さん。ガブリエルを置いて行ったら可哀想だろ? 一緒に連れて行かないと……」


「言いんだ! そんな奴に構うな、放っとけ!」


「で、でも……!」


 ラファエルは振り向くと、ガブリエルの方に視線を向けた。その視線から目を反らすように顔を反らした。3人の兄弟達には、たった1つだけ『溝』があった。その溝が深くなればなるほど、傷口は広がるように大きくなっていった。

 

 椅子の上で眠っていたガブリエルは不意に目が醒めた。身体を起こすと独り言を呟いた。  


「――なんか胸くそ悪い夢をみたな。何だアレは?」


 自分の目を擦ると指先が何故か濡れていた。


「ん……?」


 それは涙だった。彼は片方の目から一筋の涙が溢れ落ちていた。


「ッ…――!?」


 何で急に涙なんか……! 

 涙なんて俺の柄じゃねーだろ!?


 ええい、クソ! 止まれ、止まれ!


 取り乱す彼の脳裏に突如、あの時の言葉が急に蘇った。




 “僕は、お前が”




「ホント嫌な夢だぜ…――」



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