第22章ーセフィロトの兄弟ー10

 

「うっ……っ、ああっ……!」


 ベッドで眠っていた彼が突然、魘されている声を上げた。その様子から彼が酷い悪夢を見ているのがわかった。ガブリエルは側で驚くとウリエルに声をかけた。


『おい!? どうした兄貴、しっかりしろ!』


「ううっ……!」


「おいおい、一体何だって言うんだ!? 兄貴! 兄貴…――!」


 咄嗟に彼の体に両手で触れると、揺すって起こそうとした。慌てながら声をかけるとウリエルは酷く魘された悪夢の中で、苦しそうな声で名前を呼んだ。


「サキエル……バルディエル、テイアイエル……マルティエル、タブリス……。僕の所為せいだ。僕がお前達を…うっ……! 僕が、僕が…――!」


 悲しみの声で亡き者達の名前を呼んだ。まるで自分を責めるかのように、夢の中で彼らの悪夢に魘されていた。傍で見ていたガブリエルは、兄の胸に秘めた悲しみに心を痛めた。


「…――じゃない。あれは兄貴の所為じゃない。あれは仕方がなかった事だ! ウリ兄ぃ、今すぐ目を覚ませ!」


 そう言って声をかけると、自分の下唇をぎゅっと噛んだ。目の前で悪夢に魘されて苦しんでいる兄の姿に、もどかしい気持ちに襲われた。


「苦しむのは俺一人で十分だ…――! 悪夢よ、今すぐ消え去れ! 俺の兄貴をこれ以上、苦しめたら誰であろうと承知しねぇぞ!」


 そこで大きな声を上げると、雄々しく叫んだ。すると僅かな魔の気配に彼は察知した。


『そこかっ!!』

 

 咄嗟に腕の袖に隠していた手投げナイフを掴むと、瞬時に壁の方に向かって投げつけた。するとそのナイフが真っ黒な姿をした小さな蛇に突き刺さった。そして、畝るように藻掻くと、蛇は灰となって跡形も無く消えた。


「チッ、魔の下僕てさきか……。一体どこから蛇が入りやがったんだ」


 彼は天界を守る為に日頃、部下達と共に警備にあたっているが、ほんの僅かな隙間から、魔族の使いである蛇が潜り込んで来たことに警戒した。

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