第21章―竜と少年―9

「じゃあ、僕は行きます。マードックさんお大事に!」


 ユングは彼に挨拶を済ますと椅子から立ち上がった。すると帰り際にマードックがお礼を言ってきた。


「その…坊主。助けてくれてありがとな……! お前があの時助けてくれなかったら、俺はあのまま海で溺れ死んでいた。本当お前には感謝してる…――!」


 マードックはお礼を言うと握手を求めてきた。ユングはその言葉に照れた表情をしながら握手を交わした。


「い、言え…! 僕は人として当たり前の事をしただけです…! そっ、それに目の前で困っている人がいたら助けろって父さんに言われてますし……」


 ユングはそう答えると恥ずかしそうに頭をかいた。


「――いや、坊主は勇気がある。きっとお前の親父さんは勇敢な人なんだろうな。もし俺だったら、あの状況でお前みたいに誰かを助けるなんて出来ない。ましてや、こんなに体が小さいのに良く頑張るよ。俺も直さないといけないな…!」


「マードックさん…――。じゃあ、僕は行きますね…?」


「ああ、頑張って来い…!」


「はい!」


 ユングは明るく返事をするとマードックに頭を下げて病室から出て行った。そして、そのまま竜小屋がある塔へと向かった。タルタロスの西側の塔には、屋上に竜小屋があった。それはいつでも彼らが出動できるようにと建っていた。


 そこの塔には看守は余り寄りつかなかった。そこは竜騎兵かれらのテリトリーだった。普段から仲の悪い彼らは、お互いにテリトリーを決めることで共存していた。


 大きな小屋が3つ建っていた。そこには20頭くらいの竜が飼われていた。 2つの小屋には隊員達のワイバーンが飼われていてもう 1つの小屋には隊長達の竜が飼われていた。しかし、鳥人族ファルクの戦いにより。6頭の竜が亡くなった。いつもは窮屈そうな小屋も数頭の竜が亡くなったので広いようにも思えた。竜の世話係だった隊員の4名は今回の出来事に少なからず動揺していた。ユングは、彼らと挨拶を済ますとさっそく仕事に取りかかった。



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