第21章―竜と少年―4

 僕はここでは塔の見回りの警備に当たっている。あとたまに空からの見回りと偵察。見回りと言ってもとくにこれといった問題はない。鉄壁の要塞とも言われているこの牢獄は抜かりはなく警備も万全だ。


 24時間体制で監視されているので外部からの侵入や、牢屋から囚人が脱獄したとか、そんな噂もない。これといった大事もなく、みんな退屈そうにしている。ただ、唯一あるとしたらここではマトモな法とか通用しない。だからまともな人権とかもない。法が行き届かない所で悪い看守達は囚人を相手に暴力をふっている。


 時に痛めつけてゲカを負わせたり、裏では、とんでもないことをしているとも聞いた。でも、誰もそれに意見を言う者もいない。言ったら自分の身が危険に曝されるのは目に見えている。だからみんな知っていても知らんぷりしていた。


 僕もここで働く時、誰かに言われた。ここで長く働いて生き延びたかったらバカな真似や、口だしとかするなって言われた。そう言うのを見たらとにかく、知らない顔をして見なかったフリを知ろって言われた。


 今思い返せば確かにその通りだった。ここはマトモに見えても、マトモじゃない人達がいる。異常とか、狂気とか、自分の身の危険とか、そんな所だここは――。


 でも、みんなやめたくても簡単にはやめれない。遠い所から出稼ぎに来ている人達にとっては、ここで働く事は大きな稼ぎになるらしい。危険な場所と知っていてもここに出稼ぎに来る人はあとをたたない。


 僕は家族には、手紙でそんな事はかけない。書けば、お母さんやお兄ちゃんやお姉ちゃんが心配する。


だから言いたい気持ちを誤魔化して、何もなかったような嘘の手紙を書いて、自分の気持ちを誤魔化している。そうしないと、冷静な自分を見失いそうになる。ここは そう言う場所だ。


 ずっと前に夜の見回りをした時に、僕は人が殺される所を見てしまった。普通じゃ、そんなことあり得ない。でもここではそれが許される。


 実際ここで亡くなった人達は変死体で発見されたり。時にはここで行方不明になっている。そう言う人が出たら、ここでは事故死や病死で処理されるらしい。


 僕はそのことを聞かされていたので、人が殺される所を見た時は、全身が恐怖で震え上がった。今もその事は誰にも言えない。僕だけがそれを知っている――。

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