第20章―消せない罪―22

 ウリエルは最愛の弟を殴ると唇を噛んだ。その表情はどこか悲しみに曇っていた。ラジエルは、倒れたラファエルの前に立つと両手を広げて訴えた。


「おやめ下さいウリエル様…! 暴力では何も解決しません! 殴るのなら、どうか私にして下さい…――!」


「ッ…!」


 ラジエルはウリエルの前に立ちはだかると身を挺して訴えた。その行動がさらに彼の心に暗い影を落とした。目の前で弟を必死に守ろうとする彼の姿に、嫉妬と怒りさえ感じた。ラファエルは兄に顔を殴られると、無言で起き上がった。


「――まさか、兄さんが私を殴るなんて思いもしなかったよ。それで気が済んだのか? 私を暴力で支配して、言う事を聞かせるのが兄さんの望みなのか? そんなに知りたければ話してあげるよ。私はあの場所に一人で行ってただけだ。そう、兄さんがもっとも近寄りたくない場所だよ。そこで一人になりたかったんだ…。兄さんにとっては嫌な場所だろうね。それに、そこに行くなって言われてるしね」


『なっ…何だと…!?』


「兄さんに関係なくても私には関係がある。それに昨日はどうしても行かなくてはならなかった。でも、言ったところでで兄さんがそれを許すハズがないと思って無断で行った。だからラジエルは関係ないんだ」


 ラファエルは淡々とそのことを話した。


「お前まさかあの場所に行ったのか…!?」


「そうだよ兄さん。あの場所だよ――」


「未練がましい! あんな所に行っても何もないぞ!」


「思い出ならあるさ。兄さんにはそれが理解出来なくても私にとってはあそこは思い出の場所だ…――!」


 ラファエルは彼にその事を告げると、真っ直ぐな瞳で彼を見つめた。


「兄さんに守られなくても、私は一人でも自分の身を守れる…! それにいざと言う時はラジエルもいる…!」


「何だと…――!?」


「さっきだって私がグールの群れに襲われそうになった時、彼が私を助けてくれた!兄さんの力に頼らなくても私達は上手くやって行くさ…――!!」


 ラファエルは感情的になると、ついその事を兄の前で口走った。ウリエルは最愛の弟にそう告げられると胸の中をかきむしる程の激しい感情に押しつぶされ、そこで正気を失いかけた。


「ああ、なんと言うことだ…――! 僕の可愛い弟は、いつからそんな風になってしまったんだ…!? お前はラファエルではないな…!? 僕の可愛い弟は一体何処に行った…!? お前はラファエルではないっ!!」


『兄さん…!?』


 ウリエルは取り乱しながら震えた。もうそこには普段の冷静な彼は存在しなかった。足元がふらつくと、視界が回るくらいの強い目眩を感じた。


 すっかり乱心した兄を前にラファエルは困り果てた。


「兄さん何を…!? 私はラファエルだ…! それすらわからなくなったのか……――!」


『黙れっ!!』


 目の前で呼びかけている弟に向かってウリエルは突然持っている剣を振り回して敵意を剥き出した。


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