第20章―消せない罪―15

「こんなことを言うのも差し出がましいですが、どうかもっとご自身の体をご自愛下さい。私は心配なのです。ラファエル様のことが……――」


 一言思いを告げると心配そうな表情で彼を見つめた。


「ラジエル……」



「はい…」



「帰るぞ…――」


 彼の話を聞き入れと、何も言わずに掴まれた手をほどいた。ラジエルは返事をすると掴んだ手を下げた。本当は彼には言いたい事があった。でも、それを言葉にすることは出来なかった。神妙な赴きで口を閉ざすと、何も言わずに後をついて行った。2人は暫く歩くと、ラファエルは原っぱで足を止めた。


「ラジエル見ろ…あれは白鳥座だ。ここから見える景色はいつみても変わらないな――」


 ラファエルは空に向かって指を指すと、そこから星空を見上げた。満天の星空を眺めると、数え切れない程の星が輝いていた。その瞬きは、小さな宝石のように頭上に幾つも輝いていた。2人は草原の丘から星空を静かに眺めた。ラジエルは星空を見上げながら眼鏡に触れた。



「――北天の有名な星座の1つですね。この星座は天の川の上に翼を広げ、北から南に向けて飛ぶ形をしていると言われます。古くから夏の大三角形とも言われてます。あの星がベガとアルタイル。そして、白鳥座の尾に輝く星がデネブです。デネブは白鳥座で最も明るい恒星で、全天21の1等星の1つです。この星は約1,200~1,650光年も離れているにもかかわらず、明るい1等星と言われております」


 ラファエルは彼の隣でその話を聞くと、星を指差した。



「アレだろ?」



「いいえ、アレでございます。ラファエル様――」



 ラジエルは隣で答えると、自然に彼の手に触れた。



「あの星がデネブです」



 星を指差した手が、その時1つに重なった。2人の距離はグッと縮んだ。ラファエルは背中に彼の体温を感じた。その温もりがどこか懐かしく思えた。そして、胸の奥がぎゅっと切なくなった。ラジエルは話すことに夢中になっていた。ラファエルは、彼の横顔をジッと見つめながらその話を黙って聞いた。



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