第20章―消せない罪―16

 ラジエルは話す事に夢中になり、気がついた時には彼の手に自分の手のひらを重ねていた。


「す、すみません…! つい話すのに夢中になってしまい…!」


 そこで気がつくと慌てて手を離した。眼鏡を人差し指で触ると、何気に視線をそらした。


「…べつにいいさ。それより、星とは不思議なものだと思わないか?」


「え…?」


「星は何年も何百年も経っても、長い月日が経っても、この空の上で幾つも輝いているのだ。闇夜のカーテンを照らす星の瞬きが美しいと感じるのは、人間である喜びの一つだと思わないか? もし人じゃなかったら、この輝きが美しいとは思わないだろう。人間であるからこそ、人はその美しさに惹かれてしまうのかも知れない…――」


 ラファエルはそう言って話すと、空に手を翳した。



「美しさに惹かれる……。そうですね。人は美しいものに惹かれてしまうのかも知れません。私もかつて、美しいものに惹かれた一人ですから…――」


 ラジエルは失われた遠い記憶を思い出すと、懐かしさを感じた。


「ラジエル…――」


「何でしょうか?」


「お前の翼で……お前の翼で、あの空の上まで飛んでくれないか?」


「いいのですか…?」


「ああ、もっと近くで星を見たいのだ」


「わかりました……」


 ラジエルは彼に頼まれると背中から白い翼を広げた。白い純白の羽はヒラヒラと宙を舞った。美しい羽は天使の象徴の証し。その純白の羽を前に、ラファエルは彼を真っ直ぐな瞳で見つめた。手を差し伸べると、彼はその手を取った。


「さあ、行きましょう。貴方の行きたい所に、私が連れて行って差し上げます…――」


 ラジエルは彼を腕の中に抱き寄せると、地上から翼を広げて空へと向かって羽ばたいた。満天の星空の下、2人は星の煌めきを見に遥か彼方へと飛び立った――。


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