第19章―温かいスープ―12

――少年は牢屋の中で具合が悪そうにしていた。顔色はすっかり青ざめていた。ついでに外から寒い空気が吹き込んできた。ガタガタと寒さに震えていると、そこに一人の若い看守が食べ物を運んできた。牢屋の前に立つと青年は無言で少年を上から見下ろした。その様子は顔色がどこか青ざめていた。彼は自分の口を噛み締めながら、そこに無言で座り込んだ。だが、手もとがガタガタと小刻みに震えていた。少年はその様子を牢屋の中から無言で見つめた。


 チェスターは牢屋の前に座り込みながら、少年に食事を差し出した。少年は何も言わずに牢屋の前で食事を受けとると見慣れない看守を前に警戒心を強めた。



「さ、さあ…! しょ、食事の時間だよ…!? 温かいスープが冷めないうちにお食べ…――!」


 彼はそう言いつつも目線を下に落として、少年とは絶対に目を合わさなかった。チェスターは顔色を悪くさせながらジッとそこに佇んだ。



「いらない…!」



 少年は目の前の食事を拒んだ。


「そ、そんなこと言うなよ…!? お腹空いてるんだろ…!? 何か食べないと元気が出ないよ…――!?」


 少年が食事を拒むとチェスターは慌てながら取り繕った。


「ほら、美味しいよ。食べてごらんよ?」


 チェスターはそう言いつつも、体を小刻みに震わせた。


「き、きみが食べないと僕があいつらにっ…!」



 思わず取り乱したようにその言葉を口走った。すると、少年は彼の顔をジッと見た。赤い瞳が彼をジッと見つめた。不気味な瞳に彼はそこで震え上がった。少年はそこでため息をつくと空腹感から食事に手をつけた。そして、出されたスープを一口飲んだ。その光景をチェスターは、牢屋の前で釘付けになって顔色が青ざめた。




 少年があのスープを飲んでる…!!




 その光景を見ていられなくなると、とっさに口を手で押さえて嗚咽した。


「うっ…うぐっ…! ぐ、ぐえっ…!!」


 チェスターは強い精神的なストレスから地面に吐いた。少年はその光景に釘付けになった。スープを飲んでいる少年に彼は泣きながら震えた声で一言呟いた。



「ごっ、ごめんよ……! そっ、それ……! それ、人の脳が入ったスープなんだ…――!」



 チェスターは少年にボソッと呟くと、立ち上がって牢屋の前から走り出して逃げた。少年はその言葉に呆然となると持っているスプーンを落として、怒りに震えた声で叫んだ。


――クロビスはチェスターと少年に、きっちりと恐怖を植えつけた。2人が恐怖に怯えている頃、彼は広い部屋で優雅に食事を堪能していた。ステーキをナイフで切り、それを食べると、赤ワインを一口飲んだ。彼はテーブルに飾られた一輪の薔薇を愛でながらフッと冷酷な顔で笑った。そこにケイバーが、ニヤニヤしながら部屋に入ってきた。


「よう、クロビス。言われたとおりに脅してきたぜ。奴を信じ込ませるのに苦労したぜ。自分の迫真の演技に拍手を送りたい気分だ。あれは相当、ビビってるぜきっとな!」


 彼はそう言うと空いてる椅子に座って足を組んだ。

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