第19章―温かいスープ―13

 クロビスは彼からその話を聞くと、ワイングラスを片手に静かな微笑を浮かべた。そして、彼はあのスープに手をつけた。ケイバーはそれを見るなり驚いた。


「おい、いいのかよそんなの飲んで……!? それってアイツの脳スープだろ…――!?」


 とっさにその事を言うとクロビスはプっと笑って苦笑した。


「バカかお前? そんなわけがあるか。これはただのスープだ。まあ、奴らを脅すにはあの話しは上手く利用できたけどな」


 そう言って話すと平然とした顔でスープを飲んだ。ケイバーは彼の悪知恵に脱帽すると椅子に深く寄りかかった。


「――だよなぁ。俺もそんなわけあるかって思ってたんだよ。でも、お前がその話で脅せって言うからこっちは色々と苦労したんだぜ? チェスターの野郎なんか、すっかりあのスープにビビってたな。あれは少しやり過ぎたかなっておもったけど、あれはあれで結果オーライってやつか?」


 そう言ってテーブルに置かれていた果物が入った器に手を伸ばした。クロビスはワイングラスを片手に揺らすと、静寂に潜む狂気を放ちながら語った。


「わかるか? 人の恐怖はいくらだってコントロールできる。もちろん嘘もな。有りもしない真実に人は簡単に惑わされて、その嘘に怯えて恐怖するんだ。虚実の狭間で、人はありとあらゆる方向で物事を考える。それが嘘か真か。相手に嘘を信じ込ませる為にはそれなりの"芝居"をしなくては信じない。あいつを見てみろ。すっかり信じ込んでいた。どうせあの話しに恐怖をもとから感じていたんだろ。上手く"利用"できて逆に好都合だった。我ながら上出来じゃないか――」


 彼は冷たい眼差しで話すと、優雅にワイングラスを揺らして眺めた。


「アイツが料理を作ってるところを見せてやれば勝手に色んな事を想像するだろう。そしてその自らの想像力で、深層意識の中にある己の恐怖心を煽るのだ。あとはそれをより一層、強くする為のリンクが必要だ。それを開く為のプロセスをする事でありもしない恐怖に怯える。私にとって、他人に恐怖心を植えつけることは容易いことだ。奴らは私の恐怖の前に、ひれ伏すだろう。そして崇め、惨めにもおびえながら暮らすのだ。この恐怖と呼ばれる牢獄でな――」



 クロビスは彼にその事を話すとたちまち狂気を放った。



「だれだと聞かれたら私はこう答えるだろう。私こそが、このタルタロスの牢獄に君臨する真の恐怖の支配者だとな――!」



「フフッ…フハハハハッ…! フハハハハハハハハッ! アーッハッハッハッハッ!!」



 彼は狂ったようにそこで高笑いをした。



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