第19章―温かいスープ―11

 だ、だめだ…! この料理を見ただけで吐き気がする!

 あの男がオーチスさんを…――!


 うっ…!!


 チェスターは料理を運びながら、一人で強い吐き気に襲われた。すると背後からケイバーが話しかけてきた。



「なんだ? どうしたんだ?」



「い、いえ…別に……!」



 チェスターは後ろから声をかけられると、慌てて吐き気を堪えた。


「なんだよチェスターちゃん。顔色悪いな? ちゃんと持って歩かないとスープを溢すぞ。せっかくエドウィンちゃんが真心を込めて作った料理なんだからさぁ」


 ケイバーは嫌味っぽく話すと隣に並んだ。



「――なあ、見ただろ。あいつが噂のコックだぜ。お前も見てびびっただろ? ここにはな、ああ言ったイカれた奴らが沢山いるんだ。新人は"ここ"が、どう言った場所だかわかってねーようだけどな。ここにはここなりの仕来たりと、ルールがあるんだ。ここで長く続けたいと思うなら、でしゃばった真似や、刃向かうと言ったバカなことはやめるんだな。あと、軽率な行動もな。ここを牛耳ってるのは超がつくほどの冷酷な女王様だ。あいつに一度、目をつけられれば酷い目にあうぞ?」



「ぼ、ぼくはそんなこと……!」



 ケイバーのその話に顔を青ざめさせると小刻みに震えた。



「これを見ろよ。バカなことを仕出かした人間の末路を、お前もコイツみたいになりたくなければ利口になることだな」



 ケイバーはそう言うと、トレーのお皿に入っているスープを指差した。その言葉にチェスターは顔が真っ青になって口元を震わせた。そして、思わず口走った。



「こっ、これは一体、何なんですか…――!?」



 チェスターは意を決して尋ねた。するとケイバーはニヤリと笑いながら自分の頭を指差した。戦慄が走る光景に彼は唖然となって言葉を失った。そこで見たのは狂気が渦巻くような光景だった。何も言わずに頭を指差す。その光景だけでも身の毛のよだつような恐怖を全身に感じた。ケイバーは怪しくニヤッと笑うと最後にこう言った。




"久しぶりの上司との再会だ。喜べよ?"




 その意味深な言葉を残すと、彼は不気味な口笛を吹きながら歩いて去って行った。チェスターは頭の中を強く打ちのめされたような、とてつもなく大きなショックを受けた。



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