第18章―虚ろな心―22


「私は恐怖の支配者だ! お前も恐怖に怯えろ!」


「へ? 俺が?」


「なんだ…? 私に口答えする気か……!?」


「いや、口答えはしないけど……。この状態でどうやって怯えるんだ? ああ、わかったよ。やればいいんだろ?」


 ケイバーは絡まれながらも無難に対応した。


「わぁああああああっっ!! 目っ、目の前に恐怖の支配者様がいるぅっ!! ひぃいいいっ!!」


 彼の前で一芝居するとわざと驚いて怯えたフリをした。クロビスはそれを見るとクスクスと笑った。


「どうだ怖いか?」


「ああ、目の前でアンタを見るだけでチビりそうだよ。恐怖の支配者さん。すげぇ、こえー」


「フフフッ……」


 クロビスは彼の怯えた顔を見るとフとニコッと笑った。酔っぱらっているせいなのか、そこにはいつもの彼がいなかった。ケイバーは初めてみる彼の笑った笑顔に、そこで思わず拍子抜けした。


「…なんつっーか。お前、その笑った顔は反則だぞ? 本当に大丈夫かよ? その笑った顔、他の奴には見せられないな。恐怖の支配者さんはもっと怖い感じの顔にならないとダメだぞ?」


「フフフッ…。そんなこと知ってるさ、私は人を恐怖に陥れるのが好きなんだ。そして人が私を見て恐怖に怯えた顔を見るのも好きだ。フフフッ…ハハハッ……」


 クロビスはそこで酔いながら笑うと、彼の胸に頭をトンとつけて寄りかかった。


「おいおい、酔っぱらってるのか……?」



「なあ。私がオーチスをどうやって殺ったか知りたいか?」


「あっ?」


 ケイバーはその言葉に彼の顔をジッと見た。クロビスは両手で彼の頭に触れた。そして、指先で彼の頭を怪しくなぞった。


「ここの所からここまで頭を切り開いてやった。その間、奴はどうなってたと思う?」


「さ、さぁな……」


「喚いて苦しんでたぞ? 奴の断末魔の叫び声ときたら、それは愉快で堪らなかった。私はあの時、命を奪う事に高揚感を感じた。私の体には残酷を好む血が流れているんだ。残酷で残忍で冷血非道の血だ。オーチスだけじゃなく、他の奴も殺してきた。それこそ気にくわない奴を何の躊躇いもなくな……。不思議な事に私の心は何も感じないんだ。人を殺した時の罪悪感とか後悔とか後ろめたさも。きっと私の心は、あの時にすでに感じなくなったのかも知れないな…――」


「クロビス、お前……」


「ふふふっ、どうだ。それを聞いて私が怖くなったか? 今なら本当の事を言ってもいいんだぞ?」


 クロビスは彼にそう話すと、顔をそっと一撫でした。

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