第18章―虚ろな心―9


――鳥人族の戦闘で負傷した竜騎兵の隊員達は、タルタロスの牢獄にある治療室で治療を受けていた。隊員達は一角の部屋でみんなベッドで横になって大人しく寝ていた。ある者は弓矢で大怪我を負ってベッドの上でうめき声をあげていた。その部屋とは別に、ユングは違う所で治療を受けていた。ベッドの上で突然、目を覚ますと高い天井が見えた。見慣れない天井にユングは目をキョロキョロと動かした。


「うっ…あ、あれ…? ここは…どこだ……?」



「ようやく目が覚めたか――」



「えっ…?」


 近くで声がすると聞こえた方へと首を傾けた。すると近くでリーゼルバーグが椅子に座っていたのが見えた。


「リーゼルバーグ隊長、ここは…――?」


「ここは治療室だ。お前はこの2日間、ずっと昏睡状態だったのだ。このまま、目を覚まさないかと心配したが意識が戻って安心した」


「ふ、2日間も昏睡状態……?」


「ああ、そうだ。何も覚えておらんのか?」


 リーゼルバーグはユングの傍に近づくと尋ねた。質問すると、彼は首を横に振って答えた。


「す、すみません…。何も覚えてないんです……。何か自分の身に起きたような気がするんですが…――」


 そう言って答えると再び天井を見上げた。何も覚えていないことがわかると、リーゼルバーグは然り気無く話した。


「よいか、お前はダモクレスの岬で海に落ちて溺れた仲間を助ける為に自ら助けに行って、逆に溺れてしまったのだ」


「っ…! そ、そう言えば確かそんなことが…――!」


 ユングはそこで頭を押さえると何かを思いだし始めた。


「リ、リーゼルバーグ隊長! マードックさんは無事ですか!?」


「ああ、無事じゃ。大怪我はしたが命には別状はないそうだ。彼は今、他の病室で治療を受けている。お前の勇敢な行動で、彼は溺れかけた所を救われたのだ」


「そ、そうですか…! 助かってよかった…――!」


 その話を聞くと安心した顔で胸を撫で下ろした。リーゼルバーグは、ユングの隣で軽く説教をした。


「……しかし、時にその勇敢さが命取りになる事もある。その事をよーく、胸に刻むのだ。わかったな?」


 彼はそう話すと時に勇敢な行動が逆に命取りになる事を諭した。ユングはその言葉を素直に受け入れると反省した。

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