第18章―虚ろな心―10

「――そうでした。僕はマードックさんを助けに行ったけど、逆に海に溺れてしまったんでした。それにリーゼルバーグ隊長や、ハルバート隊長にも沢山迷惑をかけてしまって…――! なんだか自分が情けないです……! 僕はマードックさんを一人でも助けられるとおもったんです! それなのに僕は……!」


 ユングはそう話すと掛け布団を両手で握って悔しさを込み上げた。


「才余りありて識足らずと言う言葉がある。自己過信ほど、時に危うさを招く事もある。自分に出来る力とは、常に限られておるのだ。お前は勇敢だが、まだ体は小さい。勇敢な男になりたいのであれば、まずは己を知る事が大切だ」


「はい……!」


 リーゼルバーグはあえてそう話した。ユングはその言葉に、自分の無力さを改めて感じた。


「しかしユングよ、お前のその勇敢な行動は目をみはるものがある。お前の父親もさぞかし勇敢な男だったのだろう。父親から良い部分受け継いだな。その志を忘れるではないぞ?」


 彼はそう話すと優しく笑ってユングの頭を撫でた。少年には、彼が自分の父親の様に見えた。


「――そう言えば僕、あの時……」


「どうした?」


「僕はあの時、海で溺れて意識を失っている間。不思議な夢を見たんです……。亡くなったお父さんが夢の中に出てきて、それにリーゼルバーグ隊長の声が心の中で聞こえたんです。あれは僕のまぼろしだったんでしょうか…――?」


 ユングは不意に彼に尋ねた。


「それは恐らく深層意識の間の夢だ。何故そんな夢を見たのか私にはわからん。だが、お前はあの時にすでに生死の境目をさ迷っていた。人は生死の境目をさ迷った時にこそ、必死に生きようとするものだ。お前がその生死の境目で踏みとどまったのは、生きようとする意志が強かったからだ。それにお前を救ったのは私ではなく、お前の父親だ。私は只、お前の心の嘆きに耳を傾けただけの事――」


「僕の心の……?」


「ああ、そうだ。私はお前に私の一部を分け与えた。それがお前の心の奥の深層意識に届いたのだろう。私にもお前の声が、魂を通して通じたのだ」


「魂を通して……?」


 ユングは彼のその言葉に驚いた表情を見せた。


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