第17章―天上の刃―1

 


*ダモクレスの岬から帰還する最中、ハルバートが率いる竜騎兵一行は突如何者かに襲撃された――。



 吹雪きが吹き荒れる中。風は冷たく大地には雪が深々と降り積もった。彼らは上空を竜の背中に乗りながら移動した。タルタロスまではまだ遠い距離だった。一同は疲れている様子だった。そんな中、ケイバーはある事を考えながらニヤリと笑った。


「――良いねぇ。あれは実に良いぞ。ただのジジイかと思ったら、あんなモノを持っていたのか」


「お前、何を笑ってやがるんだ?」


 ギュータスは彼の独り言に気がつくと近くで話しかけた。


「お前も見ただろ?」


「何を?」


「竜の魂って奴だよ?」


「ああ、さっきのか。何か知らねえけど、あのガキさっきまで死にかけていたのにピンピンしてやがるな。俺もあんなのは初めて見るぜ」


「だろ?」


 ギュータスは思った事を口に出すとケイバーはククッと笑いながら相槌した。


「とんでもねぇ代物だ。あれがあれば、いざって時に使えるじゃねーか?」


「……まさかお前、くだらねえこと考えているだろ?」


「さあ、それはアンタには関係ねえだろ。何せ俺は強欲な人間なんでね、どうせなら長生きしたいじゃねーか?」


 ケイバーはニヤニヤ笑った顔で言い返した。ギュータスは彼が何を考えているかは何となく見当がついた。


「死からの復活の魂。魂の蹂躙か――。いいじゃねえか、この俺にピッタリだ。なあ、あのガキを殺したら手に入ると思うか?」


 ケイバーは何気なくそう話すとユングの方に目を向けた。ギュータスは黙ったまま、呆れてる様子だった。


「くだらねえ。人間なんざ、最後は誰もが死ぬんだ。そうまでして生きたい願望なんて俺にはネーよ。ヤりたきゃ、やれよ。でも、俺は手は貸さないぜ」


 ギュータスは、つまらなそうな顔で答えた。


「こりゃ、珍しい。アンタも俺と同じでガツガツしているのかと思ったよ?」


「けっ、テメェと同じにするな! とにかく俺を巻き込むのはやめろ。やるなら一人でやれ。その前にあのジジイが黙っちゃ、いねーだろうけどな?」


 ギュータスはそう話すとリーゼルバークの方に目を向けた。


「アイツは他の奴らと違って頭がキレてる。テメェが裏で姑息なことをしようとしても、アイツにはバレるだろう。悪いことは言わねーから、やめとくんだな。アイツはテメェがおもってるよりかは敵わない男だ」


 ギュータスのその言葉にケイバーは見下したように言い返した。


「おいおい、この俺様があんなクソジジイに殺られると思ってるのか? ビビってるのはテメェの方だろ! 俺がもしあの力を手に入れたらテメェにはやらねえからな!」


 ケイバーはムッとした顔で言い返すと、機嫌悪そうにソッポを向いた。すると一瞬、目の前を何かが横切った。


「あっ? なんだ今の?」


 目の前を何かが横切るとケイバーを辺りを見渡した。すると、再び何かが目の前を横切った。近くにいた隊員が一人、大声をあげた。それに続いてまた一人、大声をあげた。再び何かが目の前を横切るとケイバーは片手でそれをパシッと掴んだ。すると目の前を横切ったのは弓矢だった。


「弓矢だと!? 一体どこから…――!?」


 慌てると咄嗟とっさに頭上を見上げた。すると空の上に、羽がはえた人が宙を浮いていた。


「なっ、なんだアレ……!? あれはもしかして…――!」


 ケイバーは目を凝らすと姿を確かめた。すると、彼はそこで気がついた。


「あれは鳥人族ファルク……!? 何故こんな所に、鳥人族が!?」


 空の上には彼らを見下ろす鳥人族の姿があった。少数部隊の人数ではあったがただならぬオーラを放っていた。鳥人族は、天の上から彼らを見下ろしていた。その真ん中に一際、体格の良い男がいた。茶色い翼を背中に持ち。茶色い長い髪にバンダナを巻いた男が、鋭い眼光で彼らを睨みつけていた。


 その眼差しは鷹のような鋭さを秘めていた。彼らを何も言わずに、いきなり襲撃しに来た。茶色い翼の男が手で合図をおくると部下達が弓矢を引いて、頭上から矢を射ち放った。真上から次々に矢を放つと、真下にいた彼らは矢の的になった。ハルバートは、突然の襲撃に対して咄嗟にかわして防御した。周りにいた隊員達は、次々に矢の前で倒れた。リーゼルバークは瞬時に状況を見極めると彼に話しかけた。


「いかん、あれは鳥人族だ! それも只者ではない気がするぞ! あのバンダナを巻いた男には気をつけるんだ!」


 リーゼルバーグの忠告を無視してハルバートは持っている斧で弓矢を弾き返すと、そのまま上に向かって突撃しに行った。


『ウオオオオオオオォォォッッ!!』


 遥か天上に辿り着くと、彼はバンダナを巻いた男に話しかけた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る