第16章―天と地を行き来する者―2

 

 その次に気になったのは「ガルシア」と呼ばれる老婆だった。彼女は御歳、85歳になる。あのお姫様の乳母であり。小さい時から面倒を見てきたらしい。最近は歳のせいか口煩い性格で、彼女は誰に対しても文句をつける。でも、何故かお姫様には優しい。ただ彼女は口が入れ歯で、たまに口から入れ歯が落ちたりするらしい。そんな時は誰もが見ないフリをしてやり過ごしている。そんな彼女は、いつもお姫様のことを一番に考えているそうだ。そのせいか、お姫様に寄り付く男には、常に目を光らせている所があり。アレンは彼女にとってはマークの対象となっている。因みに彼女には孫がいて、その孫は王宮騎士団に所属しているらしい。確かそう、筋肉がムキムキの彼が彼女の孫だった。

 

 名前は「シュナイゼル」彼はガルシアの孫で、いい歳してまだ未婚ならしい。彼女は孫がこのまま、独身貴族になるんじゃないかと心配している。彼はお酒と自分の体を鍛えることが好きならしい。この前なんか一日中、庭で剣素振りをしていた。さすがのボクでも、あれは観てて飽きたよ。そんな彼だけど戦場では、腕のたつ武将ならしい。因みに彼の戦友はユリシーズ。2人は親友みたいな関係を築いてる。肝心なお姫様は、見ての通りのワガママ娘。そして、ちょっと子供の癖にマセているところがある。性格はどちらかと言うと明るくて活発で、ひた向きでもある。そして物事に対しては、しっかりとしている部分がある。そんな彼女の好きなものはアレン。ここまでくると実にわかりやすい。彼女は彼に夢中で他の男にはまったく見向きもしない。彼女の一日はアレンで始まり、アレンで終わる。一日中、彼の後を追いかけている。きっと留学したら彼女は彼とは離ればなれになるからそんな生活は耐えられないかも知れない。


 ボクはある意味、そんな彼女のことが凄いなと思っている。恋する力と言うのやら、彼女は純粋に彼のことが好きなのかも知れないね。ボクはそんな事を思うと、ちょっと顔が緩んだ。因みに彼女を調べてみても、これと言った特別な能力があるわけでもない。と言うか、彼女を再び観察してたらまたボクの姿が見えたらしい。そんな所に、ボクはますます彼女に興味を持った。ボクの姿は人間には絶対見えていないのに、何故か彼女には見えている。それはつまり、ボク以外の天使も彼女にはもしかしたら見えるのかも知れない。ボクはそこに興味が尽きなかった。これは徹底的に調べる必要がある。ふふふっ。面白い子だよ本当――。


 そうそう。ついでに彼のことも調べた。彼の名前は「アレン」お姫様に好かれている事から周りの男は彼を目の敵にしている。彼はお姫様に好かれていても、動じずに平然と振る舞っている。自分に引っ付いてくる彼女のことを妹のように接している。そこがまずいのか、彼女は余計にアレンに夢中になっている。彼の家系は代々、将軍家の家系らしい。先祖が腕利きの武将ばかりだったので王家とは親密な関係でもある。彼らは王家に直々に使えていることから、アレンは彼女の家来みたいな者でもある。因みに王様は自分の娘が彼に好意を寄せていることはすでに知っている。でも、あえてそこには口を出さずに、2人を見守っているようだ。彼の父親に関しては昔に亡くなったらしい。彼の父親はこの国に使える将軍として、幾つか功績をあげている。恐らく今生きていたら、この国にとってはなくてはならない逸材だったかも知れない――。


 軍隊を率いる将軍としての彼の能力は、国の中で二番目に当たる実力を持っていたとされる。因みに彼はそんな父親のことが、重荷になっているようだ。親の光は七光とまあ、彼は彼なりに幼い頃から苦労しているようだ。彼は父親とは違う方向を歩んでいる。将軍としての道より、王宮騎士団としての道を歩んでいるようだ。果たしてそれが彼の為になるのか? ボクはそんな彼の生き方を彼女を含めて今後も観察しようと思ってる。天界ばかり観察してるのもつまらないからたまには良いかなとそう思った。ボクの気まぐれでもあるけどね、ふふふっ。


 この5日間。彼らを観察してこれくらいの情報を集めた。ボクは右手を翳すと魔法で手帳を呼び出した。それを秘密の手帳に書き残すことにした。今後も彼らについて何か情報が手に入るかも知れない。とまあ、彼らの観察はこれくらいにして明日あたりに天界に帰ろう。そして、天界に帰ったら下界で観てきたものを彼に話そうと思う。そうそう、こないだ買ったお土産を忘れずにね。ふふふっ。それにしても、人も天使も面白いね。これだから観察はやめられないよ――。


 右手に持っている秘密の手帳を閉じると、夕陽が沈む景色をみながら時計台の塔から街並みを眺めた。オレンジ色の太陽が夕闇に沈む。それは一日の終わりを告げる合図。人は一日ごとに歳をとる。でもボク達天使は人間と違って歳をとらない。だから一日が過ぎようが、明日が過ぎようが、何年が過ぎようが、何百年が過ぎようが、ボク達天使にはそんなのは意味がない。だから特別な日とかも、ボク達にはない。ただ永遠の時の流れを生きる。そのせいかボク達天使は人間の持つ自然の摂理に時おり嫉妬をしてしまうのかも知れない。意味のある一日と、意味のない一日。その違いだけでその一日は大きく変わる。彼らはまだ見ぬ明日に、どんな夢と希望を描くのか? 彼らにとっての「明日」とは果たして――。ボクはそこに興味が尽きない。夕暮れに沈むローディンの街並みはオレンジ色に染まって綺麗だった。汚れてしまった世界にも、まだ美しいものはある。汚くて綺麗な世界。その脆さと危うさがボクは愛しい。


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