第16章―天と地を行き来する者―1

 ハラリエルの頼み事を引き受けたボクは、天界から下界へと降り立った。彼の夢の中に出てきた少女は実在していた。つまりこれは、彼の見た夢が曖昧な幻ではなかったことが証明される。本人を見つけて確認したし、ボクは天界に帰ろうとした。しかし、どうもあの子が気になるので、ボクは暫く下界に滞在することを決めた。あの子の観察も含めて取り合えず一通り調べようと思いついた。


 きっとハラリエルはボクのナイスな気転に喜ぶに違いない。さすがボクの一番の親友だと、彼はボクを褒めてくれるだろう。ラジエルがボクの横でハンカチをくわえて、悔しがる様子が目に浮かぶ。ぷぷぷっ。笑っちゃうね。それとも眼鏡のレンズがパリンと割れて嫉妬に燃えるかな? どのみち真面目な彼より、ボクのほうが良いに決まっている。あいつは生真面目過ぎてダメだ。シャレくらい飛ばせれば気をひけるけど、あいつにはナンセンスだろう。あいつは昔からそんな奴だからハラリエルもあんな男と毎日いたら、退屈過ぎて飽きちゃうかも。ボクだったら速攻逃げるよ。ブレイザブリクの壁をよじ登ってでもね。ハラリエルも早くボクの魅力に気がつけばいいのに。ああ、ますますキミにこの身を焦がすよボクの可愛いハラリエル。


 ラグエルは自分の体を両手で抱き締めると、ちょっと照れた感じで彼のことを想った。


「でも、天界を暫く留守にしたらあいつらを監視できなくなるからな。早く用事を済まして天界に帰らないと――」


 ラグエルはそこで冷静になって考えた。持っていた傘を広げると、時計台からフワリと空に飛び立った。気づけば朝日はオレンジ色に染まり、一日の始まりを告げていた。大聖堂の鐘がゴーンゴーンと空の彼方に鳴り響いた。鳥達は歌い、空を飛ぶ。自由の翼を広げて遥か空の彼方へと――。


 ボクは彼等の観察を兼ねて5日かけて情報を収集した。すると彼女の周りからいくつか面白いことが見えてきた。まずこの国を治めるルワン王には彼女意外に子供が授からなかった。つまり彼女は一人っ子ってことだね。そのせいか、王様は自分の娘を溺愛している。王様のお妃様はその逆で性格が厳しい。王様は娘にはあまいけど、お妃様は彼女の事を厳しく育てている。それにはちゃんと理由があって、彼女にはしっかりとした女性に育って欲しいのがお妃様の願いらしい。彼女は将来、この国を治める女王様になる。だから、しっかりとした教育を彼女に教えたいんだと思う。だから彼女は近いうちに、この国を離れて他国にある。名門のお嬢様達が通う学校に留学するらしい。そこでしっかりとした礼儀作法とレディとしてのたしなみと教育を学ぶらしい。でも、彼女は未だに駄々をこねている。もう決まったことなのに彼女はそれに猛反対。理由は笑っちゃうことに「アレン」と呼ばれる少年と離れたくないから、そんな理由で彼女はお嬢様学校に行きたくないらしい。


 そんな彼女の行動に頭を抱えているのが「ユリシーズ」と呼ばれる青年。彼は王宮騎士団の団長を務めていて、彼女の付人でもある。つまり彼は彼女の専属のナイトみたいな役目を補っている。腕はたつけど、性格が少し石頭。彼は彼女が生まれた時から傍で見守っている。彼は彼女のワガママに毎回振り回されていてそのせいか胃が痛くなるらしい。でも、そんな彼女のひた向きな性格に彼はどこか惹かれている。つまりそう言うこと――。さて、それが何かはボクの口からは言えない。ふふふっ。人間って案外、単純だね。


 さて、次に気になったのは「バーシル」と呼ばれる大臣だ。彼は王様の側近を長年務めているらしい。でも、どこかイヤらしい臭いがプンプンする。こう言う奴ほど、仮面の下は腹黒かったりする。まあ、それはボクの直感だけどね。彼はお金が大好きで、彼の部屋にはお金の札束や金貨が、あちこちに隠されている。ちなみに彼の隠し部屋には大きな金庫があってそこには大金が保管されている。彼はそれを眺めては一人で恍惚している。ボクから見ればバーシルって言う男は変なヤツだね。彼は常に自分の出世のことや、お金のことばかりを考えている。そんな奴ほど野心は人一倍にあるとみた。



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