第16章―天と地を行き来する者―3

 

――翌日、ボクは彼女がいるお城へと向かった。話しによれば、今日は彼女が国をはなれる日だ。ボクはそれを見届けようと足を運んだのだった。一応、彼女の部屋を覗いてみた。するとあの子は椅子に座ったまま不貞腐れていた。


どうやら彼女は観念したのか、もう泣いてぐすってる様子もなかった。ボクはその様子を窓の外から覗いた。間もなくすると、両親が彼女の部屋を訪れた。親子で会話をすると王様が娘を両手で抱き締めて頭を撫でた。どうやらいよいよらしい。もうそろそろで迎えが来るようだ。父と娘で抱擁を交わすところが親子の仲の良さを感じた。そして、彼女の表情はどこか悲しげにも見えた。


 ――気の毒に。本当は生まれ故郷から出て行きたくないはずだ。ついでに3年も故郷から離れるなんて、さぞかし辛いだろう。ボクはそんな彼女に少なからず同情した。


彼らを観察していると、どうやらお城の門の前に迎えの馬車が到着したようだ。馬車は城門を潜るとお城の中に入ってきた。そして、その知らせをしに誰かが部屋の中に入ってくると彼女は浮かない顔だった。ユリシーズの知らせに王様は頷くと彼女を部屋から連れ出した。彼らが部屋を出て行くとボクは窓辺に降りたって中に入った。部屋に入ってその直後にボクは目撃した。彼女は部屋を出る際にユリシーズの足をワザと踏んづけた。


それもおもいっきり踏んづけたようにも見えた。彼女は彼の足をヒールで踏んづけるなり、すました顔でツンとした態度をとった。そんな彼女の態度を両脇にいた両親達は、気づいてない様子だった。彼女はすました顔で部屋から出ていった。どうやら彼女の怒りの矛先は彼に向いたらしい。彼女のささやかな反撃に、ユリシーズは足の痛み堪えながら我慢した。ボクはその場で笑いそうになった。でも、彼女に気づかれたらマズイと思って笑いを堪えた。


長い廊下を歩いて階段を降りて突き当たりを右に曲がるとお城の玄関口にたどり着いた。玄関の前には白い馬に繋がれた馬車が到着していた。馬車はいかにも、豪華な装飾品で彩られていた。まさに王族が乗るような馬車だった。彼女は馬車を目の前にすると顔が青ざめた。そのせいか、馬車を見るなり後退りして躊躇っていた。


「嫌よ、私やっぱり行きたくない! ローディンから離れるなんて出来ない! お父様はそれでいいの……!? 3年も会えないのよ!?」


 彼女はそこで自分の気持ちを訴えた。王様は困った表情をみせた。


「ミリアリアよ、私を困らすではない。私だって本当は可愛い一人娘のお前を他国に留学生として行かせたくはないさ。でも、仕方ないことなのだ。恨むなら、王家に生まれてしまった血筋を恨むがよい」


「お、お父様…――!」


 王様はそう語りかけると、彼女の肩に両手を置いた。彼女は父親にそのことを言われると言い返す言葉も出なかった。お妃様は王様の隣で彼女に声をかけた。


「ミリアリア。良いですが、貴女はこの3年間で色々なことを学ぶのです。母の願いは一つです。貴女が立派なレディとなって成長してこの国に帰ってくることです。それが貴女に課せられた使命だと忘れてはいけません。貴女は将来、この国を治める女王になるのですから――」


「はい、お母様…――」


 母の話しに彼女はどこか悲しげだった。少女は2人にアレンのことを尋ねた。


「ねえ、お父様。アレンはどこにいらして?」


「ああ、あの者はもうすぐ来る頃だろう」


 彼女はアレンが来るのをソワソワしながら待った。その仕草はどうみても、恋する乙女のようだった。間もなくしてユリシーズがアレンを連れてきた。彼女はアレンの姿が見えると顔が急に明るくなった。


「アレン…――! アレン来てくれたのね!?」


「はい、ユリシーズ様に呼ばれて来ました。今日は姫様が旅立つ日だと聞いて、急いで駆けつけにきました。おくればせながらお待たせしてすみません」


「いいのよ! アレンが見送りに来てくれただけで私、凄く嬉しいの…――!」


「姫様……」


 彼女は瞳を潤ませながら彼にそう告げた。まるで、今生の別れのようだった。たかが3年。されど3年。どうやら彼女にとっては一大事のようだ。彼女は涙目でアレンのことをジッと一途に見つめた。


「わたしね、貴方と離れるのは本当は嫌なの。アレンに会えない3年間はとても辛いわ……」


「姫様、私もです。ですがそれも運命として受け入れるしかありません」


 アレンは凛々しい表情で彼女に語りかけた。彼女はその話しに涙を溢した。


「あのね、アレン。わたし貴方に毎日手紙を書くわ。毎日書くら、手紙を必ず読んでね?」


「まっ、毎日ですか……?」


「ええ、そうよ。嫌かしら?」


「とんでもありません! このような私めに姫様からの手紙を頂けるとは光栄でございます…――!」


 アレンはそう言い返すと頭を下げた。



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