第13章―箱庭の天使達―9

 

 剣で体を貫かれたラグエルは、彼の方をみるなりそこでニヤリと笑った。その笑みはどこか余裕さえ感じ取れた――。


「フフフッ。そうでなくっちゃ面白くないよ」


「ッ――!?」


 ラグエルはそう話すと、突如姿を消した。雲隠れするかのように自身の存在と気配を同時に消し去った。彼がパッと消えると、体を貫いたはずの剣はその感覚を失った。彼が姿を消すなりそこで唖然となった。部屋の中から気配がなくなるとウリエルは消えたラグエルを直感で探った。


「出てこいラグエル! 姿を消すなんて卑怯だぞ! 僕と正々堂々と戦え!」


 ウリエルは剣を片手に怒りを露にした。もうそこには冷静沈着と呼ばれる本来の大人しい彼の姿はなかった。もうただ怒りと憎しみだけが彼の心を支配した。姿を完全に消したラグエルは、小バカにしたような笑い声で彼の近くでクスクスと笑った。


「ウリエル今のは惜しかったね。キミはボクを殺したくて堪らないだろ? でもボクは簡単には殺られないよ。ボクはキミ達みたいな天使じゃないからね。初めから存在がないボクは空気みたいなものさ。誰もボクは殺せない。それがボクが神に選ばれた一番の理由だ――」


「チッ、小賢しいことを抜かすな……! まさかこのまま逃げるつもりか!? 出てこいラグエルッ!」


 ウリエルは大声で怒鳴ると、翼を広げて怒りを剥き出した。


「今度こそお前を殺してやる! 僕がこの手でお前を…――! この裏切り者の堕天使がっ!!」



「じゃあ、やってみるかい――?」



 それは一瞬だった。傍でラグエルの声が聞こえてくると、背後から殺気を感じたウリエルは後ろを咄嗟に振り向いた。するとラグエルはらブリューナクの槍を翳して彼に襲いかかった。背後からくる殺気に気がつくと、彼はすかさず剣を振り上げた。二つの刃が再び交える時、その間に突如カブリエルが割り込んで入ってきた。彼は同時に両方からくる刃を両手に持っている双剣で食い止めた。その瞬間、刃がぶつかって共振する音が辺りに響いた。


『2人ともそこまでだっ!!』


「ガ、カブリエル…――!?」


「チッ……!」


 互いに刃を向け合う中で、突如そこにガブリエルが間に割って入ると、2人は一瞬気をとられて戦闘を止めた。ガブリエルは直ぐに仲裁した。


「やめときな、無駄な命の削り合いはするもんじゃねー。ましてや、こんな所で戦いをおっ始めるなんざ、2人共どうかしてるぜ。大宗主のジジイや、元老院のジジイどもにこのことを知られたら法廷会議もんだぞ? 悪いことは言わねー。2人共、いますぐ無駄な戦いは止めるんだ。それでもやるなら、俺が2人纏めてブチのめしてやる。まっ、その時は俺も手加減しねーからな!」


 ガブリエルは2人に向かってその事を問いただすと、その場で批判した。殺気立つウリエルとは違い、ラグエルは大人しく引き下がった。


「なーんだ。ガブリエルかぁ? 良いところだったのに邪魔するなんて酷いな。あと少しでそこのわからず屋をギャフンと言わせれたのに残念」


 ラグエルはそう言うと持っている槍を下に降ろした。


「ギャフンとまぁ、よく言うもんだ。その前にお前がうちの兄貴に返り討ちにされる姿が目に浮かぶ。うちの兄貴はこう見えても、キレると結構ヤバイんだぜ。あまりちょっかい出すとあとで痛い目みることになるかもしれねーぞ?」


 ガブリエルは然り気無くそのことを話すと、ラグエルは不満げに呟いた。


「あのねぇガブリエル。ちょっかい出されたのはこっちなんだけど? あーあ、なんだかバカらしくなってきたな。今回は彼の顔に免じて許してあげる。でも、次はそうはいかないからね!」


 そう言ってラグエルはウリエルの方をジロッと睨むと、そのまま何も言わずに姿を消した。戦いが終わると建物の揺れもおさまった。さっきまでの戦いが嘘のように、辺りには再び静寂が戻った。ラグエルがどこかに消えて行くとウリエルは、そこで持っている剣を床に落としてガクッと崩れ落ちた。ガブリエルは気がつくと咄嗟に兄の体を受け止めた。


「おい、兄貴大丈夫か!?」


「クッ……!」


「――まったく無茶をしやがる。兄貴はいつもこうだ」


「すまない、ガブリエル……!」


 彼は肩を半分貸すと、兄の体を支えた。一方ラファエルはミカエルが寝ているベッドへと急ぎ足で向かった。そして、そこで彼が見たものは信じられない樣な光景だった。



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