第13章―箱庭の天使達―8

 

 テミスの宮殿は崩壊を目前に地響きの音が強くなった。そして、突如 建物の中から大きな爆発音がした。周りにいた天使達は誰もがそこで唖然となりながら立ち尽くしていた。そこに2人の天使が自分の部下を引き連れて現れた。眼帯姿に赤い髪をした男と、白衣を着た金髪の男が現れると、周りにいた天使達は直ぐに道をあけた。


「おいおい、これは一体何の騒ぎだ!? 兄貴はどこだ!?」


 赤い髪の男は近くにいた衛兵に掴みかかると尋問した。すると、衛兵は怯えた声で答えた。


「わっ、わかりません……! いきなり宮殿に異変が起きたんです! それに立て続けで爆発したり、建物全体が次々に壊れたりしてます! 中の様子を伺いたくても見えない結界で遮断されていて、外から中にはいることは出来ません!」


「何だって!? それはマジか!? てか、兄貴はどこだ!?」


「あっ、兄貴……?」


「兄貴だよ、兄貴! ウリエルだ!」


「ああ……! ウリエル様ですか…――?」


「そうだ!」


「その、見てません! 見てないんです……!」


「あぁっ!? そりゃ、どーいうことだ!? お前ら外の衛兵が兄貴の姿を見てないってどういうことだ! 説明しろッ!」


『ひぃいいいっ!!』


 赤い髪の男はその場で気弱な兵士に尋問すると、隣にいた金髪の男が嗜めた。


「よさないかガブリエル…――! 彼は何も知らないんだ! それにこんな所で揉めてる場合じゃないだろ!?」


「ラファエルは黙ってろッ! 役立たずな兵士は俺が根性、叩き直してやる!」


「叩き直すのは良いが、私に余計な仕事を増やさせるのはやめてくれよ」


 ラファエルは隣で反論すると冷ややかな目で彼を見た。


「チッ……! 兄貴は甘いぜ!」


 ガブリエルは兄の忠告を素直に聞き入れると、掴みかかった手を離した。


「ウリエル兄さんがいないとなると一体どこに? まさかあの中に…――?」


 ラファエルは不意に建物に目を向けると、そこであることを思い出した。


「しっ、しまった! ガブリエル大変だ! 中にミカエルが……!!」


 ラファエルはテミスの宮殿にミカエルが療養していることを思い出すと慌ててその事を告げた。


「何だって!? 俺はミカエルがあそこにいるなんて知らなかったぞ!?」


「すまん、話しは後だガブリエル! 早くミカエルを救出しなくては彼が危ない――!」


「チッ、兄弟なのに俺には知らせなかったな!? 畜生っ…――!」


 ガブリエルはそのことを告げられると、不機嫌な顔で愚痴を溢した。


「じゃあ、あの中にいるのはウリエル兄さん……? 兄さんは一体、誰と戦っているんだ…――!? とにかく行くぞガブリエル!」


「おう!」


 2人は意気投合すると目の前に張られている結界を破って、崩壊寸前の建物の中に急いで入って行った。ウリエルは眠っているミカエルを守る為、倒れてきた柱を剣で粉々に粉砕すると魔弾でその破片を跡形もなく吹き飛ばした。そして、翼を広げて剣を右手に構えるとウリエルは、ラグエルの方に目掛けて突進した。その素早さは、彼の目には見えない程の驚異的な速さだった。まるで一瞬、風が通りすぎたようにそれは疾風のような勢いで彼に襲いかかってきた。ラグエルが気がついた時には遅かった。アスカロンの剣は、いつの間にか彼の体を貫いた。


「なっ、バカな…――!? ウリエルっ……!!」


 ラグエルの体を剣で貫いたウリエルの表情は、尋常じゃない程の怒りと憎しみで支配されていた。その合間に見えたものは相手を八つ裂きにしたいと思う強い「殺意」と「狂気」。彼は剣でラグエルを仕留めるなり、一瞬だけ薄笑いを浮かべた。もうそこには人の理性を越えた何かが存在した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る