第13章―箱庭の天使達―7

 

 ウリエルはラグエルを睨み付けながら、怒りに燃えている様子だった。彼は傷ついた体で起き上がると、近くの床に突き刺さっていた剣に手を伸ばして体の重心を支えた。傷つきながらも立ち上がる彼にラグエルは、再び話しかけた。


「へぇ―、まだボクとやる気なの? やめときなよ、次は死んじゃうよ。いいのウリエル?」


 ラグエルは一言話しかけると、瞳の奥を怪しく光らせた。


「黙れ! お前は天使なんかじゃない……! お前は黒い翼を纏った醜悪な堕天使だ!」


『ボクを堕天使って呼ぶなぁーっ!!』


 ラグエルは怒りで大声を上げると、槍から再び雷を放った。雷はウリエルの近くを横切ると、そのまま壁に衝突して爆発した。その衝撃に再び宮殿は大きく揺れた。外にいた天使達は、大きな爆発音に驚いた様子だった。建物の崩壊は直ぐ目の前まで迫っていた。そんな中で彼らは互いの思いをぶつけた。


「フフフ……。今のはちょっと惜しかったかな? 命拾いしたねウリエル。でも、ボクは悪くない。悪いのはキミだ。ボクを堕天使って呼んで怒らしたからね。それにね、ミカエルの命を奪いに来たならあいつから取り上げられたを持ってお望み通り彼に会いにきてあげる。それで眠っている彼のよこで終焉の笛を吹いてあげるよ」


 彼はポツリとそのことを呟くと、冷ややかな目で彼を見た。ウリエルはその言葉に反応すると鋭い目線で睨み付けた。


「――でも、ボクはそんなことはしない。だってボクは堕天使なんかじゃない。それにボクは良い子でいたいんだ。わかるだろ? 悪いことをした天使は堕天使になって天界から追放される。そう、彼みたいにね……。でも、ボクはそんなことはしない。皆とは仲良くいたいんだ。だからボクを怒らすのは止めてくれないか? て言っても石頭でその上、何も見えていないキミにはわからないけど」


 ラグエルは呆れたように話すと、フラりと歩いて宙を浮いた


「で、まだボクとやる気なの? 建物も壊れはじめてるみたいだし、まだやる気ならこっちにも考えがあるよ?」


 そこで意味深なことを話すと、壊れかけている柱の前に近寄るなりニヤリと笑って見せた。ウリエルは剣を握りしめると、怒りを露にしながら彼のところまで歩いて近寄った。


「堕天使めっ……! お前みたいな奴はこの天界から出ていけ! そしてあいつと共にジャハンナへと落ちろッ!!」


「あっそう。それがキミの答えなの? 可哀想に、ホント何も見えていないんだ――」


『うるさい黙れぇっ!!』


 ウリエルは怒鳴り返すと、持っている剣をラグエルの方に向けて投げた。剣は宙を回転すると、前にあった柱に鋭く突き刺さった。


「あぶないあぶない。剣を投げつけるなんてキミらしくもない。ねえ、キミってまさか怒ると手につけられないタイプかい?」


 ラグエルは突き刺さった剣を柱から抜くと、それを翳してみせた。


「良い剣だと思うよ。歯こぼれもしてないし、それに切れ味も良さそうだ。キミが使っていた剣を試して使うのも悪くないね?」


 彼は剣を眺めてそう話すとニヤリと笑った。そして、柱の上を歩きながら話しかけた。


「ボクは今まで疑問に思ってる事があるんだ。四代天使のキミ達は、神がおつくりになった「兄弟」と呼ばれる特別な繋がりを持った天使達だ。それがキミ達、ウリエルにミカエルにラファエルにカブリエルだ。ボクは思うんだよ。キミはその中でもミカエルのことを特別に可愛がっている。ボクには兄弟がいないからそれがわからないんだ。ってのがね――」


 ラグエルはそう呟くと、いきなり剣を振り下ろして柱を斜めに切り落とした。柱は切れると、そのまま斜めに傾きながら横に落ちた。その側にはミカエルが眠っているとされるベッドがあった。柱は崩れ落ちるとベッドの近くに倒れて来た。ウリエルはその光景に一瞬に目を奪われた。


「アハハハッ! キミのこの剣、切れ味抜群じゃないか! 驚いたよ!」


 ラグエルはミカエルがいる方へとワザと柱を切り落とすと、そこで高笑いをした。ウリエルはその光景に頭がカッとなると、ついに力を見せた。


『ラグエル貴様ぁああああああっっ!!』


 大声で叫ぶと彼は隠していた背中から、白い翼を広げて宙を飛んだ。そして、手の平からアスカロンの聖剣を召喚した。彼はアスカロンの剣を手に持つと、倒れてきた柱を素早い動きで切り崩すと、もう片方の手から魔弾を放って柱を吹き飛ばした。その瞬間、宮殿の中で轟音が響いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る