第13章―箱庭の天使達―6

 

「そうかい? でも、きみを殺すには十分だ。きみが受けた痛みは、こんな程度では済まされないよ。きみの裏切りによって、アイツに殺された部下達の痛みに比べればね」


 ウリエルは憎しみに燃えると、思い詰めた表情で名前を呟いた。


「君にはわからないだろ。僕のこの胸の痛みが……! サキエルもバルディエルもテイアイエルもマルティエルもタブリスもみんなアイツに殺されたんだ! 僕が一番可愛いがってた部下達を……! 僕はきみが憎い! 出来ればこの手で、きみを今直ぐ殺してやりたいよ!」


 そう言って彼は右手に持っている剣を握り締めると、小刻みに体を震わせて、強い怒りと憎しみと殺意に燃えた。


「ぷっ、あはははっ! 逆恨みなんて古臭い。やっぱりキミは石頭みたいだね。タブリスにマルティエルねぇ。ああ、よく覚えてるよ。アイツにゴミ同然に始末された哀れな天使だろ? 確かあの時、意気がった指揮官の命令のおかげで最後は犬死にしたんだよね。きっと今頃キミを恨んでるかもしれないよ?」


『ラグエル貴様ぁああああああああッ!!』


 ウリエルはそこで怒りを爆発させると、持っていた剣を振りかざして彼に突撃した。するとラグエルは、持っている槍を彼に向けて突如呪文を唱えた。


「やられた分だけお返しだよ!」


 ラグエルは呪文を唱え終わると、槍から強力な稲妻を放った。ブリューナクの槍から放たれた稲妻は、蒼白い光を放ちながら巨大なエネルギーとなって、一直線に向かって襲いかかった。凄まじい威力を持った稲妻は、閃光の速さで床の間を駆け抜けると僅か数秒で彼の所に到達した。


「しっ、しまった……!」


 ウリエルはブリューナクの槍から放たれた稲妻に気がついた。だが、あまりの速さに稲妻の攻撃を防ぐ暇もない彼は、巨大な稲妻を直撃で受けた。


『うわああああああああああぁぁっっ!!』


 閃光のような稲妻は確実に彼をとらえていた。その瞬間ウリエルは稲妻の攻撃によって全身に大ダメージを受けると、遠くまで弾き飛ばされた。その威力は彼が持っていた剣を吹き飛ばす程の強力な威力だった。吹き飛ばされた剣は空中を回転すると、床に鋭く突き刺さった。稲妻の予想以上の破壊力にウリエルは床の上に倒れると苦悶の表情を浮かべ苦しんだ。そこにラグエルが、ブリューナクの槍を持ちながら彼に近づいた。


「へぇ、結構この武器。思った以上に威力があるんだね。ボクの大事な物を取り上げられたからその腹いせにこの槍をアイツの武器庫から頂戴したんだけどね。まさか予想外だったな。この槍は、あのジーさんが持つにはもったいない。宝の持ち腐れだ。キミもそう思うだろ。て言っても、あの武器庫は本来アイツのものじゃないけどね。何を勘違いしているのかわからないど、あのジーさんは天界を治めた気分でいる。ホント見てて呆れるよ」


 ラグエルは小バカにしたようにクスッと笑うとそこでウリエルを見下ろした。彼はブリューナクの槍から放たれた一撃により、体に大きなダメージを受けてしまった。一撃とは言え、予想外な威力に苦悶の表情を浮かべながら血を吐いた。とても立ち上がれそうにもない彼を前にラグエルは見下ろしながら話しかけた。


「ねぇ、一つ言ってもいい? ボクのことを終末の天使てよく呼ぶけど、正確には使だからね。この際だから言っとくよ。あと、ボクの事を堕天使って呼ぶのはやめてくれないかな。凄く侵害で傷ついたよ。生まれながらに白くて綺麗な純白の羽を持ったキミにはボクの気持ちなんてわからない。黒い羽を持って生まれただけなのに皆に堕天使扱いされて……! ましてやボク達は同じ天使なのに…――!」


 ラグエルはそこで唇をグッと噛み締めると、激しい感情を露にした。ウリエルは床の上から辛うじて起き上がると近くにあった剣に手をかけた。体は傷つき、長い髪を束ねていたリボンがスルリとほどけて床に落ちた。彼は長い髪を揺らしながらそこで小刻みに怒りに内震えた。その瞳はまさに殺意と怒りに燃えた様子だった。それを見たラグエルは一瞬、ゾッと寒気すら感じた。



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