第13章―箱庭の天使達―5

 

 ラグエルは空中から下を見下ろすとそこでニヤッと笑った。


「ふふふっ。もしかしてボクと本気でやる気? いいね。何だがワクワクする。もしかしてまだあの時のこと、まだ根に持ってるの? キミもしつこい奴だな。もう昔のことなのにね。なんならここであの時の決着でもつける? ボクは別にいいよ。でもこんな所で僕達が暴れたら、寝ているミカエルが巻き添いを喰らっちゃうんじゃないのかい?」


 ラグエルは挑発めいた言葉を言うとクスッと笑った。その言葉にウリエルは、キッと彼を睨み付けた。


「――天魔大戦。ええ、忘れもしませんよ。昔のことなのに今でもハッキリと覚えてます。きみの裏切り行為は悪も同然だ! きみがした裏切りによって、僕の部下達は大勢死んだんだ! 僕はきみを許さないッ!!」


 ウリエルは気を解放すると自身の秘めた力を瞬時に解き放った。その気は凄まじく、建物全体が大きく揺れた。地響きはおさまらず、建物の床には大きな亀裂が入るほどだった。彼は剣を構えると、そのまま彼に向かって突撃した。


『ハアアアァァァッ!!』


 気迫のこもった声をあげながら剣を大きく振り上げた。ラグエルはそこで余裕の笑みで笑うと、翳した手の平からブリューナクの槍を召喚した。


「キミがやる気ならボクも手加減しないよ。と言っても熾天使のキミと戦っても、ボクの勝ち目は無さそうだけどね」


 ラグエルは槍を構えると、そこでポツリと呟いた。彼の表情は余裕の笑みさえ見せた。ウリエルは剣を振り上げると、彼を斬りにかかった。するとその攻撃をラグエルは槍で受け止めた。力と力のぶつかり合いはそこで一つに弾けた。その大きな衝撃に宮殿の一部が破壊されて吹き飛んだ。宮殿の外にいた衛兵達は突然起きた災害に巻き込まれると、彼らは石や柱の下敷きにあって倒れたのだった。ただならぬ非常事態に中にいた誰もが外へと急いで避難した。宮殿は大きく揺れ続けて崩落の危険さえ出始めた。そんな中でウリエルとラグエルは、未だ眠りにつくミカエルを挟んで部屋の中で一騎討ちを始めた。剣と槍がぶつかり合う音はより、激しさを増した。力と力がぶつかるごとに宮殿の揺れは一層強くなった。そんな中で彼らは、刃を交えた。


『ハァアアアーッ!!』


『ヤアアアアッ!!』


 凛々しい叫び声をあげながら彼らは迷わずに、相手に刃を向けて戦い合った。そこにはもはや、同じ天使同士だと言う理屈や概念はなかった。彼らは、同族であることを忘れて一種の柵から解放されると互いに敵とみなして戦った。力と力がぶつかるごとに再び宮殿は唸り声を上げた。もはや建物が崩壊するのも時間の問題だった。


 外にいた天使達はその光景に息を呑んで唖然となった。宮殿で一体、何が起こっているのかも分からない天使達はそこで眺めていることしか出来なかった。建物に近づこうとすれは気で覆われたバリアが行く手を塞いだ。誰も建物には近づけず、彼らはそこで恐怖に怯えながら震えた。


「むっ、この殺気……! そこかあぁあああああッ!!」


 ウリエルは気配が感じた方に向かって手のひらから魔弾を放った。そして、次の瞬間に彼は地面から高く飛ぶと、剣を勢いよく振った。何もない空中で僅かにラグエルの声が聞こえた。彼は空中で剣を振り続けると、そこで一気に剣を右に大きく振った。すると次の瞬間、中央の柱に何かがドンと、当たった大きな音がした。ラグエルは柱に全身を叩きつけられるとそこで姿を現した。


「ッツ……!」


 ラグエルは体に少量のダメージを受けた様子だった。彼は口から血を流した。


「フッ、フフフッ……! やってくれるね、今のはちょっと痛かったな。さすが熾天使の称号を持つだけにあるよ。でも、こんな力では彼は越せないけどね?」


 ラグエルは口から血を流すと、そこでうっすらと笑った。



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