第12章―残骸のマリア―7

 

「血と肉に飢えた狼の群の中に投げ込めばいい……生きたまま、狼に手足を食いちぎられる姿は見物だ……最後にあげる断末魔はきっと素晴らしい…――」


 そう言って話しながらも、口から再びヨダレを垂らした。クロビスはその提案に鼻で笑って言い返した。


「ジャントゥーユ、お前って奴は…――」


 彼は呆れたように話しかけると、怪しい仕草で彼の顔にそっと触れた。


「お前は醜いだけの怪物だが、その発想は実に素晴らしい。もっと具体的に私に教えてくれないか? どんな風にして噛み殺されるんだ?」


 彼の妖しげな妖艶な眼差しにジャントゥーユは思わず見とれた。


「狼に首元を噛みつかれる……両腕を噛みつかれて、無惨にひきちぎられる……そして、足も噛みつかれて――」


 彼がそのことを話すと、人指し指で顔に怪しく触って微笑を浮かべた。


「フフフ、なかなか良いアイデアだ。想像しただけでもゾクゾクするな。さすが殺しが好きなだけにある。お前は殺しが好きな変態か? それともただのサディストか? ああ、ちがうな。お前は頭がイカれたサイコ野郎だ。そうだろ?」


「お、俺が……?」


「だって好きなんだろ? 人を切り刻んだり、なぶったり、爪を剥がして拷問にかけて遊ぶのが好きなんだろ?」


「うううっ、おっ、俺は……」


 ジャントゥーユは自分の頭を抱え込むと、そこで困惑した様子を見せた。


「お前は人を殺すことで快楽を感じてる変態なんだよ――」


 彼の言い放った一言にジャントゥーユは頭が混乱すると、壁に向かって自分の頭を叩きつけた。


「違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! おっ、俺は……!」


 混乱したように自分の頭を壁に向かって何度も叩きつけると、彼は震えた声でブツブツと呟いた。すると背後からクロビスが話しかけた。


「――ちがわないだろ? ホラ、これを見ろ。お前は殺しが好きな変態なんだ。まだわからないのか?」


 クロビスはそう言って意地悪そうに話すと、彼の足下に向かってスティングの切り落とされた手を投げた。


「何が違うんだ。こんな物をもって帰ってきて、どうするつもりだったんだ? ああ、あれか。お前の戦利品ってわけか? 本当にお前は悪趣味だな。イカれた父親そっくりだ。猟奇的で残忍で善と悪の区別がつかない無知だ。お前は生まれながらにしてサイコ野郎だ。それがお前だよ、ジャントゥーユ。これを見て何が違うかを説明してみろ――」


 クロビスは冷酷な表情で話すと、そこで悪戯に笑って見せた。それはまるで、妖艶さを纏った悪魔のような微笑だった。ジャントゥーユはクロビスのその言葉に両耳を塞ぐと怯えた様子で下に踞った。彼はその様子を上から見下ろしながら鼻で笑った。


「お前は醜くて、おまけにサイコ野郎の変態だ。皆はお前の事を何て言ってるか知ってるか? 醜い化け物。怪物。お前は皆にそう呼ばれているんだぞ。どうだ知ってたか?」


 両耳を塞いで踞って、怯えてる彼の前にクロビスは下にしゃがむと近くで話しかけた。


「――でも、よく考えて見ろ。醜いのはお前だけじゃないだろ? 誰にでも醜いものは存在する。それは顔だったり、体だったり、心だったりする。お前と私、それでどう違うって言うんだ? それにお前がサイコなら、私はサディストだ。お前は人を殺して快楽を感じてるんだろ。それなら私だって人を傷つけて快楽を感じてる。あいつらだって同じさ。みんな病気なんだ。ここにいる奴らみんな。だから「病気」を恥じることはないだろ? 受け入れるんだ。そうすればもっと楽になれる」


 そう言ってジャントゥーユの前に小さくしゃがむと、不意にその事を話した。その様子はどこか儚げで、狂気と切なさを秘めた彼の表情はどこか壊れやすさを感じた。まるで消えてしまいそうな雪のように儚げに笑った。ジャントゥーユは彼のその言葉に心の中で何かを感じとった。


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