第12章―残骸のマリア―6

 

 拷問部屋を出るとクロビスの目の前にジャントゥーユが現れた。彼は切り落とした手を片手に持ちながら、ニタリと不気味に笑った。


「お前と言う奴は、人が目を離した隙に直ぐにこれだ。本当に行儀が悪いな」


 クロビスはジャントゥーユにそう話すと、冷ややかな目で彼を見た。


「で、あいつらは何だって?」


「お前の命令……竜騎兵達に伝えた……でも、あいつら役立たず。全然動こうとしない……だから俺、ひとり殺してやった……ウへ……ウヘヘへへ……」



 ジャントゥーユは不気味に笑うと、切り落とした手を彼に見せた。


「誰の手だ――?」


「バカな奴のだ……俺にバカみたいに絡んできたから刺してやった……」


 ジャントゥーユはそう答えながらも、口からヨダレを垂らした。彼のみっともない姿に、クロビスは軽くため息をついた。


「あきれて言葉がでない。お前は一体、なにしにあいつらの所に行ったんだ? 竜騎兵達を囚人の捜索に向かわせなくては、意味がないだろ?」


 クロビスがその事を投げ掛けると、ジャントゥーユは直ぐに答えた。


「あいつらは臆病者。一人殺したら直ぐに捜索に向かった……」


「それは本当か――?」


「ああ、そうだ……」


 そう言って頷くと、兵舎で起きた出来事をすべて話した。ジャントゥーユからその話を聞くと、彼はそこでため息をついた。


「――そうか。あいつがそんな事を言っていたのか。さすが犬だな、奴に何年も飼われていたら、身に染み付いたってわけか。今ではすっかり奴の忠犬に成り下がった。つまりは、そう言う事だろ?」


 クロビスがそう話すと、ジャントゥーユは相づちして返した。


「ああ、そうだ……竜騎兵達の忠誠心はお前じゃなくお前の父にある……ここの所長のな……だからあいつらはお前の命令には簡単には従わない……役立たずで無能な連中だ……」


 ジャントゥーユはそう話すと、肩をすくめながら不気味に笑った。


「囚人を見つけたら金貨を寄こせと言っていた……褒美が出ない場合はこの事を所長に報告するとも言った……どうするクロビス……?」


「全く何処までも卑しい連中だ。なら、望みどおりの褒美を用意させとくさ」


 彼はそう話すと、冷たい表情で怪しく笑った。


「いいのかクロビス…――?」


「ああ、構わない。それに今は気分が良い。奴らが囚人を捕まえて私の目の前に差し出したら、その時は褒美を与えてやろう」


「そうか……」


 クロビスは自分の長い髪を触ると、優雅に髪をかきあげた。


「囚人を捕まえたらどうする……?」


「フッ、そんなこと聞かなくてもわかってるだろ?」


「ああ、そうだな……」


 彼がそう考えると、ジャントゥーユは意味深にニタニタと笑いながら隣で相槌をした。


「そうだな。たまには見せしめに公開処刑はどうだ? 火炙りの刑とギロチンの刑。お前ならどっちが面白いと思う?」


 彼の質問にジャントゥーユは、口からヨダレを垂らしながらニヤッと笑った。


「ここの囚人達に恐怖を与えるにはいい機会だ……。脱獄をするとどうなるかをアイツらに思い知らせてやれば、もう二度とバカな真似をする囚人は現れない。みんなお前の恐怖の前に跪く……ウヘ、ウヘヘヘヘヘッ……」


 ジャントゥーユは不気味な声で薄気味悪く笑うと、ある提案をした。


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