第11章―少年が見たのは―3

 

「女と男は別だろ!? それに得意って何だよ!? 俺が誰かまわずにするような男だと思ってるのかお前らッ!?」


 ムキになって言い返すと、周りは誰一人もフォローしなかった。シンと静まり返った。


「テメェら、舐めてんじゃねーぞ! 誰かまわずにするような奴は、スティングみたいな野郎を言うんだ! 何で俺が男となんか…――!」


「隊長、ユングの顔色が悪いです! このままでは本当に助かりません……!」


「チッ……!」


 周りの部下達がユングの容態を心配する中、ハルバートは未だに渋っていた。


「リーゼルバーグ、テメェがやれ! コイツはテメェの部下なんだから人工呼吸ぐらいできるだろ!? おっ、俺は心臓マッサージをしてやるからよ…――!」


「それは無理だ」


「何っ!? 私はそんなに若くはない。お主の歳なら、肺も若いだろう」


「まじで言ってるのかジジィ……!」


「さあ、ハルバート! お主も男なら一人くらいの命、助けてみせるのだ!」


 リーゼルバーグがそこで渇を入れてくると、ハルバートはユングの方に視線をチラリと向けた。


 クソッ、何で俺が……! 何で俺が坊主となんかっ……! 冗談じゃないぜ、今日は本当に散々な一日だ…! 何で俺が男となんか! ち、ちくしょう……!


 隊員達が見守る中、ハルバートはそこで葛藤した。


 坊主を助けないといけないのはわかっているが、どうも自分の気が進まないぜクソッ……!


『ハルバート、早く人工呼吸をしないかッ!』


「うるせぇ! んなことは、言われなくてもわかってるんだよ!」


 クソッ! クソッ! クソッタレ! チクショウッ!


 ユングを上から見下ろしながらも、ハルバートは未だにためらっていた。


 男とキスするなんて悪夢だ……! この俺が一体、何したって言うんだ畜生!


「ハルバート隊長、ユングの顔色がますます悪くなってます……!」


「んなことは、見ればわかるんだよ! どいつもこいつも黙りやがれ!」


「でっ、ですが…――!」


 隊員達はそこで騒ぎだすと、ユングの事を気にかけた。ハルバートは、この場から逃げ出したい気持ちをグッと堪えると恐る恐る顔を近づけた。


「こっ、これは事故だ……! お前達、勘違いするなよな!? 俺はそっちの気なんて微塵もな……!」


『いいからさっさと人工呼吸をしろッ!』


 リーゼルバーグは急に苛立ちを隠せなくなると怒鳴った。ハルバート、そこで意を決して再び顔を近づけると、途端に周りの視線が気になった。


「なんだよ……!? 見んなよ、見るなぁーっ!」


 そこで顔を近づけるのをやめると、周りに怒鳴り散らした。彼が躊躇っていると、隣にリーゼルバーグが黙って並んだ。


「――何をためらっている。お主はその程度の男だったのか? 人望が厚い男と思いきや、とんだ腰抜けだ。もしこれがあのクロビスだったら、お主はそれでも躊躇う気か?」


「なっ、何だと……!?」


「あの子は私とお前がここに来た時からの長い付き合いでもあるが、あの子がなついていたのは私ではなく、お前だハルバート。よく考えてみるがいい。もし、これがあの子ならお前はそれでも見捨てる気なのか?」


「クッ……!」


 隣でその事を投げ掛けると、ハルバートはそこで唇をギュッと噛み締めた。


「汚ねーぞジジィ、それで俺の心を揺さぶったつもりか!?」


「何を言うのだ。騎士とは誠実なだけではあるまい。時にズル賢くてはならないのはお主もわかっているだろ。この場に及んで尻込みするのならば、お前はその程度の男だったと言うことだ――!」


 リーゼルバーグが彼に向かって、一刀両断で切り捨てると、そこで冷ややかな目をした。


「言いたいこと言いやがってふざけんなよ! 誰か尻込みするか!」


「では、早く助けるのだ!」


『クソッツ!』


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