第5章―死と恐怖―14
「俺を醜いと呼ぶな!」
腹の辺りにナイフを突きつけられた瞬間、彼は一瞬驚いた。
ジャントゥーユは冗談でナイフを彼に突きつけたわけでもなく、本気で突きつけていた。
「下からナイフを上に向けてあげたらどうなる?」
彼は薄気味悪い笑いを浮かべながら、そう話すとニタニタしながら笑った。
「まず、引き裂かれた腹の中から腸が出てくる。それから内臓にすい臓だ……。床にお前の胃袋をぶちまけてやろうか……?」
醜い顔に狂気じみた笑いを浮かべると、その事をギュータスに言った。
「俺は、お前が床にぶちまけた内臓を……焼いて食う……イヒヒッ……」
ジャントゥーユはイカれた感じでそう話すと、ギュータスは『冗談だろ?』と言い返すと一歩下がって身を退いた。
「――俺もイカれてるがお前の方がよっぽど頭がイカれてるぜ。そのイカれた頭はお前の父親似か? さすが何人も、人を殺してきただけにあるな」
そう言うとジャントゥーユは壊れた人形のように首を傾げた。
「俺、イカれてる……? そうか……。俺はイカれてるのか……」
ジャントゥーユは壊れたように首を傾げると、ブツブツと何かを独り言を呟いていた。そして、目の前の鉄格子に向かって自分の頭を何回も打ちつけてはそのことを呟いた。
壁に自分の頭を打ちつけているとギュータスは呆れて暫く黙って傍で見ていた。そして、不意に我に返るとジャントゥーユは、自分の頭を壁に打ちつけることを止めた。
「気が済んだかよ?」
彼が呆れた顔で尋ねると、ジャントゥーユは額から血を少し流しながら頷いて返事をした。
「ああ……!」
ギュータスは牢屋の外でさっき何をやっていたかを尋ねた。するとジャントゥーユは、牢屋の前にある鉄格子の傍に黙って近づいた。
半分壊れている鉄格子の前に佇むとギュータスを手招きで呼んだ。ジャントゥーユに呼ばれると、鉄格子の前まで歩いて移動した。そして、壊れた箇所を指差して話した。
「ギュータス、これを見ろ……!」
ジャントゥーユがそう言うと、指を指した方向を不思議そうに目を向けた。
「何だよ?」
彼は壊れている鉄格子の前に立つと、ギュータスに話した。
「囚人……ここから逃げた……」
彼は壊れている鉄格子を前に指をさすと、そのことを話した。ギュータスは壊れている鉄格子の目の前に立つと自分の目で確認した。
「……確かにここの鉄格子は壊れているな、囚人の野郎ここから脱走したのか?」
ギュータスはそう呟くと、鉄格子を触って確かめた。
「そう言えばオーチスの野郎が今朝、クロビスに報告してたな。脱走した囚人の牢屋は鉄格子が腐っていてそこを無理矢理壊して脱走したってな。けっ、今考えれば俺達も上手くアイツに騙されたわけだ。まさかあいつが囚人の脱獄に担してたとはな!」
ギュータスはそう言うと鼻で笑った。
「鉄格子を触ってみたが、ここの箇所だけ腐ってやがる。オーチスの野郎もよくこんな所を見つけて脱獄に利用したよな?」
彼はそう話すと壊れている鉄格子の付近を目をくまなく見た。壊れている鉄格子の箇所は、他の部分とは明らかに違い。何故かその部分だけが、異様に腐っていた。ギュータスはそこである疑問を感じた。
彼が疑問に思ってもおかしくない状況だった。タルタロスの鉄格子は普通の牢屋にある鉄格子とは違い。かなり頑丈に出来ていた。
普通の体格の男が無理矢理、力で鉄格子を壊そうとしても簡単には壊れないような、頑丈な作りになっていた。
それこそ怪力の男じゃなきゃ、このタルタロスの鉄格子は壊せないほどとてつもなく頑丈だっだ。ましてや、タルタロスの牢獄にある鉄格子は長年の間さびて腐った報告はなく。今でも鉄格子は、不気味なほど頑丈だった。
何故ここまで頑丈かと説明すると、それはまさに囚人が牢屋から簡単に『脱獄』させない為の対策であり。その為、この頑丈な鉄格子がタルタロスの牢獄内のあちらこちらに設置されていた。そんな頑丈で出来ている鉄格子が一体何故、一部だけ腐ったのかとギュータスは疑問でならなかった。
「何か不気味なんだよな。なんでここだけ……」
ギュータスはそう呟くと、壊れている箇所を再び調べた。
「まさかアイツここだけ何か細工をしたのか?」
ギュータスは素手で触って何度も確かめたが、細工は何ひとつもみつからなかった。
「ケッ、本当にここだけ腐ってただけかよ」
彼はそう話すと調べることをやめたのだった。
「鉄格子が溶けてたら、オーチスが囚人の脱獄に加担した証拠に繋がるんだがな。怪しい細工した形跡もねーし。ただ鉄格子が自然に腐ってただけか…――」
そう言って理論を出すとジャントゥーユにそのことを話した。
「――まっ、恐らくアイツは黒にちげえねぇな。チェスターの言ったようにアイツは端から黒だと思う。きっと日頃の鬱憤が堪って、とうとう頭がキレちまったのかもな?」
ギュータスは笑いながらそう話すと、証拠となる紙を探しに再び牢屋の中へ入った。するとジャントゥーユがいきなり彼の手をガシッと掴んだ。
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