第5章―死と恐怖―7
「恐らくあの牢屋の中にあります。自分は囚人が彼から受け取った紙を部屋の中に隠した所をこの目で見ました」
チェスターがそう話すとクロビスは不意に質問した。
「――お前は何故それを知っていて黙っていた? この私に報告するのが、義務だということを忘れたか?」
クロビスがそう言うと、チェスターは顔を青ざめながら質問に答えた。
「俺だってまさかと思ったんです。まさか、彼があんな事をするなんて思ってもなかったんで動揺したんです! オーチスさんは、俺の上司なのでまさかあんな事をするなんて今でも信じられなくて……!」
チェスターがそう答えると、クロビスは目を細目ながら話した。
「だから黙っていたわけか?」
「……」
クロビスが呆れながらそう話すとチェスターは急に黙りこんだ。
「正直に答えろ、その話をしてたのはいつだ?」
彼の質問にチェスターは小さく答えた。
「昨日です……」
チェスターがそう言って答えると、クロビスは呆れた顔で警棒を手の上でトントンとさせた。
「――成る程。ここまでくると怒りを通り越して呆れるな。つまりお前は前日に計画を知っておきながら黙ってたわけか? 私を誰だと思ってる。私はタルタロスの所長の息子だぞ? 随分と私も舐められたものじゃないか。なぁ、お前達」
クロビスがそう話すと、3人の看守達は一斉に相槌をした。
「使えねー看守にはもう用はねぇ! クロビス、こいつもやっちまおうぜ!」
ケイバーはそう言うと背後から彼を羽交い締めにした。その光景をジャントゥーユは、ニタニタしながら笑って見た。チェスターは必死にクロビスに謝った。
「すみませんでした! どうかお許し下さい! どうか命だけは助けて下さい! おっ、お願いします…――!」
チェスターは自分の身にふりかかる恐怖に震え上がるとその場で立ったまま漏らした。彼が恐怖の余りに尿を漏らすと、クロビスは呆れて舌打ちをした。
「チッ……!」
チェスターは恐怖に脅えながら話を続けた。
「俺はその真実を確かめに今日、脱走した囚人の牢屋に行き。紙になんて書いてあるのかを確かめようとしたんです……! でも、メモを確認する前に囚人は既に牢屋を脱走していて、本当に囚人が脱走したなんて、俺は思ってもいなかったんで動揺したんです!」
『わああああああああああああーーっ!』
彼は床に崩れ落ちると両手をついて大人げなく泣き出した。そして『死にたくない!』と喚いて泣いた。クロビスは怒りを剥き出すと、床に両手をついて泣くチェスターの手を黒いブーツでギリッと踏みつけた。
「もう泣き言は沢山だ! お前達は逃げた囚人の牢屋に今直ぐ行き、オーチスがその囚人に渡したと言った紙切れを今から探して来い!」
彼が怒り口調で彼らに命令するとギュータスとジャントゥーユは2人して拷問部屋を急いで出た。そして逃げた囚人がいた牢屋へと向かった。怒りを露にしながらオーチスの前に立つと、彼は上から威圧的な態度で見下ろした。
「そう言えばお前は昨日はどうした。出勤したのか、どうなんだ? この際だハッキリと言え!」
彼の質問にオーチスは出勤したと答えたが、自分は囚人の牢屋には昨日は行っていないと話した。
「フン、そんな証言は今さら当てにならんぞ! 紙切れが見つかれば、真実は明らかになるだけのことだ! ますます黒になってきたなオーチス、 この私を騙そうとした罰は重いぞ――!」
クロビスはオーチスにそう話すと、近くにいたケイバーに指示をだした。
「念の為だ。お前は今から管理室に行き、昨日の出勤簿と、報告書が一つに纏めてあるファイルをただちに持って来い!」
彼の命令にケイバーは了解と一言いって頷くと、後ろ向きで軽く手を振って部屋をそそくさと出て行った。
不穏な空気が流れる一室には、はりつめた空気が漂っていた。オーチスは椅子の上で身の潔白を訴えた。
「私は絶対にやってない!」
彼は最後の最後まで自分は『無実』だと、やっていないと頑なに主張し続けた。クロビスはそんな彼を上から見下ろすと、オーチスに対して冷酷な眼差しで話した。
「フン、いまさら命乞いかオーチス? 散々この私を騙しておいて……! 私も随分とお前に舐められたものじゃないか? 少し買いかぶり過ぎたようだな。父の信頼と、私の信頼さえも裏切って満足か? 天津さえ囚人を密かに脱獄させる計画を企ててたとは正直恐れいったよ。ま、最初から私はお前を信じていなかったがな…――」
クロビスはそう話すと、自分の鼻をフンと鳴らした。
「お前が椅子の上でどんなにあがいても、真実は今から明らかになる。お前が白か黒かそれを見ればどのみち解ることだ。ケイバーには昨日の出勤簿と報告書をここに持って来いと指示を出した。お前は精々そこで天の神に祈ることだな。そう、この世界では神は無慈悲な存在だ。お前もあとでその意味を知ることになるだろう。何せこの私が『昔』そうだったからな――」
そういうと意味深な笑いをクスッと浮かべた。彼の瞳には暗い闇だけが其処に存在した。
「今はお前にとって私が神だ! 避けられぬ運命は必ずある、今がまさにその時だなオーチス!」
クロビスが冷たい眼差しでそう話すと彼は黙って肩を小刻みに震わせた。そして張り詰めた重たい空気は、彼の心と精神を徐々に煽った。
「お前はこの言葉を知ってるか?『to be, or not to be. That is the question.』ウィリアム・シェイクスピアの言葉。生きるか死ぬかそれが疑問だと言う名言があるが、お前はどっちだ? この過酷な運命にじっと耐えるべきか、それとも抗い終息させるべきか? お前が座っている椅子はまさに死刑台と言ったところか? 自分で撒いた種だ。それなりのフィナーレを最後見せてもらおうじゃないか――」
意味深にそう話すと、彼の前で冷酷な微笑の笑みを浮かべた。彼の冷酷な瞳を見たオ-チスは心の中で呟いた。
この悪魔め……!
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