第5章―死と恐怖―2

 

 ギュータスが斧を持ったまま、ウズウズしていると、ジャントゥーユが横から口を挟んだ。


「ギュータス……オーチス殺るなら……俺に爪を剥がさせろ……! 俺、オーチスの爪……欲しい……!」


 ジャントゥーユはそう言うと、今にも彼の爪を剥がすような雰囲気を出していた。そこで収拾がつかなくなると、クロビスは自分の爪を磨ぎながら3人の前で呆れて話した。


「フン、お前らの頭は殺戮のことしか考えてないのか? オーチスを白状させる為にも少しは頭を使ったらどうだ?」


 クロビスが呆れた表情でそう言うと、ジャントゥーユは自分の頭を抱え込んだ。


「おっ俺……計算苦手、で……でも……爪欲しい……! うううっ……ど、どうすれば……!?」


 ジャントゥーユはそう言って自分の頭を拳で叩いた。ギュータスはそんなイカれた彼を見ながら、隣でバカ笑いをしたのだった。


「アハハハッ、やっぱりコイツ馬鹿だよな!? 前々から馬鹿だと思っていたがやっぱりコイツ馬鹿だぜ! アハハハハハハッ!」


 自分の隣で彼がバカ笑いをすると、ジャントゥーユは直ぐにムキになって言い返した。


「うるさい、俺は馬鹿じゃない……!」


 ジャントゥーユはそう言い返すが、ギュータスはケラケラと可笑しそうにまだ笑っていた。オーチスは椅子に座ったまま、まだ頭がボンヤリとしていた。自分の目の前では、2人の看守が言い争っていた。クロビスは自分の爪を磨き終えると2人に話した。


「ふん、オーチスが白状しないようであれば後は好きにしてもいいぞ…――!」


 クロビスは冷たく彼らにそう言うと、ケイバーにナイフをよこすように片手でジェスチャーしたのだった。


「そのナイフを貸せ!」


 ケイバーはクロビスに言われたとおり、ナイフをポンと手渡した。


「……ホラよ!」


 クロビスはオーチスの目の前でナイフをギラリとさせながら黙って見つめると、次の瞬間に左脚にナイフを勢いよく突き刺した。左脚を鋭いナイフで刺されたオーチスは、突然の痛みと激痛に叫んだ。激痛に思わず叫ぶと冷酷な看守4人はニヤニヤしながら笑ったのだった。


 オーチスの額からは異常なほどの大量な冷や汗が滲み出た。彼の中を支配したのは、それは『恐怖』だった。狂気が渦巻く空気の中でオーチスは、椅子に座らされたまま体をガクガクと小刻みに震わせた。左脚には鋭いナイフが突き刺さったままだった。左脚から血が滲み出ると、床に血がポタポタと滴り落ちた。顔を恐怖にこわばらせながらオーチスは震えあがった。そんな彼を4人は冷酷に笑い続けたのだった。クロビスはわざと彼の左脚に刺さっているナイフをさらに奥にグッと刺した。オーチスはあまりの痛みに椅子に座ったまま叫び続けた。


 

 再び血が床にポタポタと流れ落ちると、ジャントゥーユはそれを人指し指につけてペロリと舐めた。


「……うまい!」


 そう言うとジャントゥーユは、再び指先についた血を美味しそうにペロペロと舐めたのだった。オーチスはジャントゥーユが自分の血を指先につけて旨そうに舐めている光景をみて、背筋を凍らせて「ヒィッ!」と思わず叫んだ。


「たのむ、もう許してくれ……! 私は囚人を逃がしたりはしていない……!」


 オーチスはそう言って訴えると、椅子に座ったまま体を小刻みにガクガクと震わせた。そんな言葉を彼は信じていない様子だった。クロビスは椅子をオーチスの目の前に置くと、冷酷な顔をしながら座った。そして、優雅に片方の足を組むと冷たく話しかけた。


「……私は知らない、知りませんでしたで、簡単に済むと思うのかオーチス?」


 クロビスはそう言うとオーチスの左脚に刺したナイフを片手で弄りまわした。鬼畜で冷酷な表情を浮かべるクロビスに、彼は全身が恐怖で震えあがった。


「責任逃れは出来ないぞオーチス! あそこのエリアは、お前が担当だろ!? 貴様は一体何を企んでいる! 今すぐ答えろ!」


 クロビスはそう良い放つとオーチスの左脚に刺したナイフをわざと抜き取ったのだった。その瞬間、ナイフを抜き取られると左脚の傷口からは大量な血が一気に溢れ出た。



「おい、素直に白状しないとお前の家族がどうなってもいいのか――?」



 クロビスの意味深な言葉にオーチスは顔が真っ青になった。そして、その言葉に自分の頭を真っ白にさせると慌てて言い返したのだった。


『たっ頼む、やめてくれ……! かっ、家族には…! 家族にだけは、手を出さないでくれ……!』


 オーチスは悲痛な叫び声でクロビスに訴えたのだった。しかし、彼は冷酷な顔をしながら言い返した。


「ふん、貴様の家族がどうなろうが私には関係い。今聞きたい事は逃げた囚人の行方だ! 私はこのタルタロスの責任者の息子だぞ!? 親父にこの失態をどう報告すればいいのか言ってみろっ!!」


 クロビスはそう言い放つと自分の右手の革手袋をはずして、彼の顔を躊躇いもなくバシッと叩いた。乾いた音が拷問部屋に響いた。オーチスは震える様に怒りを込み上げたのだった。彼が鋭く睨み付けると、クロビスは不敵な笑いを浮かべた。


「その目は何だオーチス。お前には囚人を逃がした疑いがかけられていることを忘れたのか――?」


 クロビスはそう言うと彼の前で皮肉混じりに笑った。

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