第5章―死と恐怖―3
「お前はあそこのエリアの担当なのに、不覚にも囚人を逃がした。例えお前が逃がしていなくても、今回の責任はお前にある。それについてはどう弁解する気だ?」
彼がそのことを言うと、オーチスは自分の唇を噛みしめながら謝罪した。
「た、大変申し訳ありませんでした……! 今回の責任は私にあります……! ど、どうかお許し下さい…――!」
彼がそう言って深々と謝るとクロビスはそこで突然、大きな声を出して高笑いをした。そして、いきなりオーチスの頭を鷲掴みしたのだった。
「馬鹿め、それで許されるとおもったか!」
クロビスはそう言うと、ジャントゥーユにオーチスの爪を一つ剥がしてもいいと指示をだした。ジャントゥーユはそれを聞くなり、ニタニタと笑いながら爪を剥がす器具を持って彼に近づいた。
「ウへへへ……いいのかクロビス……? 俺、オーチスの爪欲しい……!」
ジャントゥーユはそう言うと、オーチスの周りを怪しく歩いて爪を剥がす器具をカチカチ鳴らせて歩いたのだった。突然の仕打ちに対してオーチスは、身も心も恐怖に震えあがった。
『ヒィイイイイッ!!』
恐怖に震えるオーチスの表情を見ながらジャントゥーユは、ニタニタしながら不気味に笑った。そして、わざとらしく鋭利な器具をオーチスの目の前でカチカチ鳴らせたのだった。クロビスは冷酷な表情をしながらジャントゥーユに一言話した。
「全部は剥がすなよ……!」
クロビスからそう指示を受けると、ジャントゥーユは頷いた。
「ああ、わかった…!」
オーチスは自分の身に起きる恐怖に震え上がると、その場で喚き声を上げ始めた。そんなこともお構い無しにジャントゥーユは事を始めた。オーチスは椅子に座らされて、身動きがとれないでいた。その場から必死に逃げようとしても逃げれずに、彼は絶望感に打ちのめされたのだった。
「一体何故です……! 何故こんな仕打ちをなさるのですか……!?」
必死に訴えてくるオーチスに対して、クロビスは反応すらしなかった。ジャントゥーユは鋭利な刃先を爪の隙間にいれると次の瞬間、爪をベキッと剥がしたのだった。先が尖った鋭利な器具は歪な音をたてながら彼の爪を糸も簡単に剥がした。とてつもない痛みに彼は、椅子に座らされたまま絶叫して喚いた。
『うわあああああああああっっ!! やっ、やめろ……! やめてくれぇーーっ!!』
オーチスは椅子の上で痛みにもがき苦しんだ。その様子をケイバーは林檎を食べながら見ていた。ギュータスは、もがき苦しむ彼を見るとそばでニヤニヤしながら笑った。そして、クロビスは冷酷な表情を浮かべながら、苦しむ彼を上から見下ろした。
剥がれた左手の爪が床の下にコトンと落ちた。ジャントゥーユは、それをニタニタ笑いながら拾ったのだった。
「とれた……!」
ジャントゥーユはそう呟くと、赤く血で染まった爪を直ぐに瓶の中に入れた。彼が入れた瓶の中には無数の爪が沢山入っていた。透明な瓶をカシャカシャ振ると、それをオーチスの目の前で見せたのだった。
「これ……俺のコレクション……。剥がした爪、このなかにいれる、俺だけのコレクションだ……。次は……どの爪、くれる……?」
ジャントゥーユは壊れたようにそう言うと、不気味に笑った。そして、口からヨダレを垂らしたのだった。オーチスは殺気だつ空気に気がおかしくなりそうになった。そして、剥がれた指先からは血がポタポタと地面に滴り落ちた。クロビスは苦悶の表情を浮かべるオーチスに言い放った。
「で、お前はさっきから何も知らないと言っているが、本当はどうなんだ? 今素直に白状すれば命だけは助けてやる」
クロビスは冷酷な表情でそう言うと、彼の周りを威圧しながら歩いた。言い知れぬ重圧感にオーチスは、全身から汗をかきながら答えたのだった。
「わ、私は……私は決して囚人を逃がしたりはしていません……! 本当です、神に誓います……!」
震えた声でそう答えると、クロビスはただならぬ重圧感を漂わせながら背後で尋ねた。
「本当にそうか――?」
「かっ、神に誓います……!」
「じゃあ、もし嘘だったらお前は私にどう償う気なんだ?」
クロビスの問いかけにオーチスは、自分の唇を震わせながら答えた。
「そっ、その時は自分の命で償います……!」
背後からの威圧感に支配されると、クロビスに思わずその言葉を言ってしまったのだった。彼がそう言うと、クロビスは鼻で笑って一言言った。
「いいだろう。今の言葉、忘れるなよ――?」
クロビスは意味深にそう言うとケイバーにある事を話した。
「おい、さっきの奴をここに来させろ!」
彼がそう言うとケイバーは誰かを呼びに行った。そして、間もなく一人の若い看守が拷問部屋に訪れた。若い看守の男は部屋の中に入ると、一瞬体をビクッとさせた。そして、彼の顔をみるなり、すぐに下を向いて目を反らした。オーチスは、その若い看守の顔をみるなり反応した。その男は同じエリアの担当の看守で自分が担当していた若い新米の看守だった。クロビスはオーチスの顔を伺いながらその場で黙った。オーチスはその若い看守の男を見るなり、すぐに助けを求めたのだった。
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