第12話
気がついた時にはもう見慣れた真っ白な壁が見えた。そして前には傷を負って血を流しているヴィー、それを治療しているアニスがいた。アミュローゼスは何も考えられず、へたりと床に座り込んだ。
彼女の前に立ちはだかったのは、無力な自分自身であった。
私は教徒を助けることは出来ず、ただ逃げるだけの、ロスタ教の教主。なんてやつだろう。
限度を超えた恐怖、悔しさ、そして無力感にはらはらと涙が落ちた。
なんという、教主。なんて酷いトップ。……こんなやつ死んでしまえばいい。
ふっと目の中にあった光が消える。それはアミュローゼスの生きる力が消えたことでもあった。しかし突然脳内に声が響いた。
「なぜ君は帰ってきたんだ! 」
突然に黒と金色の瞳が私の目の前に現れる。さらさらの銀髪が揺れ、私を怒鳴りつける。
「なにをしているのか聞いているんだ、僕は! 」
ロジト、だ。
なに、してるんだろうね。
「そうやって絶望して、何もしないつもりか! 」
だって、私に出来ることなんて、無いもの。
「じゃあ出来ることを増やせば良いだけだろう! 」
増やす?
「君は僕より多くの神力を持っている。鍛えれば君は多くの人を救えるんだぞ! 」
私が、人を、救える?
「今、君はセラで名誉が徐々に低下している。回復させなければ、僕も姿を保てないし、君も君で居づらくなる。セラに防御壁を神力で張るんだ。それが、僕と君の優先すべき事だ」
私の神力を、張る。
鍛えて、私は人を、救える。
ロジトの言葉が脳内で何度も繰り返され、私はゆっくりと立ち上がった、涙も拭わないまま。
「体の神力をお腹に集めるんだ」
神力、光のようなもの。
目を瞑り、光をお腹に集める。押し出して、進ませようとしても、水の中で沈殿物が逃げるのと同じように、光は直ぐに逃げてしまう。変に小さい力だとそうなる。じゃあもっと大きなものでは? すると、光は大きく軌道を変更して行ってしまった。……難しい。どこからか汗が流れるのを感じる。
「力でどうにかしようとするな。光は自由なものだ。どうこう出来るようなものじゃない」
じゃあどうやって?
ロジトは指で私の首からお腹をつつつとなぞる。
「腹に力を込める。そして重しを作れ」
重し?
「それは光を強制的に集めさせる。磁石で言えば、重しがプラス、光はマイナスだ」
力を込めるだけでいいの?
「補助は僕がしてやる」
その言葉を私は結構驚いたけれど、素直に甘えることにした。
ありがとう。
「お礼を言う暇があったら、さっさとやるんだ」
うん、わかった。
私は再び目を瞑り、お腹に力を込めた。するとそこに熱が加わる。段々熱くなって、重さを感じる。
ロジト、熱い。
「我慢してくれ、重さにも。これが一番手っ取り早い」
熱い、熱い、重い。お腹が火傷しそうなくらいだ。体全体に重力を感じるし、汗が出てくる。お願い、光よ、私の物になって。
「いいぞ、そのまま、もう少しだ。ローズ」
お願い……。瞼にも力が入り、汗が目に染みる。
すると、身体中の光がひゅんとお腹らへんに吸い込まれた、そんな気がした。そして、熱さが消え、重さだけが残った。
目を開ければ、ロジトは疲れた顔をしていた。
「よく頑張ったな、ローズ」
ってことは……。
「腹を見ろ」
そこには、今まで無かった輝くものが見えた。体にも少し纏っていた。
「それが君の神力だ」
私のロジト 野坏三夜 @NoneOfMyLife007878
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