第11話

「え? 」


 鳴り響いた爆撃音に驚く私たち。いち早く危機を察したのはヴィーだった。


「ここにいては危険だと思います。いち早くセラを脱しましょう。とりあえず身を隠して」


 土埃が舞い、賑わっていた市場から聞こえてきていた明るい声の代わりに、叫び声と悲鳴と泣き声が入り交じる混沌と化す。

 音が鳴った方をからは、沢山の人が怯えた表情でこちらに向かってきていた。真っ青な顔で、逃げなくては怖い何が起きてるんだ、そんな人々の思いを感じ取って、足が動かなくなった。

 すると見かねたアニスが機転を利かせて、私の腕を強引に引っ張って路地へと連れ込んだ。ヴィーは険しい表情だった。


「今すぐここを出ます。アミュ様は私から離れないでいてください」


 逃げ込んだ路地は、市場で出す筈だった商品の箱があって、広くはなかったけれど身を隠すにはうってつけの場所のように見えた。悲鳴のせいか、先程よりも空は暗くなったように感じた。

 アニスの声は、いつもと同じように聞こえた。でも、その裏には緊張があった。それでもアニスは地面に魔法陣を震える手で描き始める。


「俺は被害の様子を見てくる」


 騎士としてだろうか。ヴィーは落ち着かない様子で路地から身を乗り出そうとする。


「待って! 」


アニスはすかさずヴィーを止める。


「……この紙を持っていなさいヴィー。そうすれば私たちが出る時に一緒に来れるから」


 アニスはそういい、地面にある魔法陣と同じものが書かれた紙をヴィーに手渡した。


「ありがとう」


 そう言ってヴィーは駆け出した。

 一体何が起きてるの? どこかに爆撃を受けたの? それとも盗賊の襲来でも受けた? あまりにも突然の出来事で混乱状態に陥る。

 暫くもしないうちに、どしんどしんと再び音がなった。それに今度は近づいているようにも思えた。

 これって足音? つまり、もしかして……。

 気づいた時にはもう遅く、路地から見えたのは一匹の巨大なの行進している姿だった。大きく真っ黒な毛の魔物は斬撃を受けた跡があり、赤黒い血が滴るのが見えた。目は大きく、ギョロりとしたそれは魔物の恐ろしさを際立たせていた。

 そして何より私の心を抉ったのは前足の爪についていた魔物自体の血よりも薄い赤が染み込んだ布の切れ端だった。それは誰かがあの鋭い爪で切り裂かれたことを暗示していた。

 どくん

 それを見て、私の心臓は大きく跳ねた。

 私は、このままのうのう帰っていいのだろうか。私は教主なのに、教徒セラの町を見捨てて帰っていいのだろうか。


「魔法陣用意出来ました。飛びます! 」


 アニスの声が響いても、私はまた動けなかった。だからまたアニスが私を引っ張って、セラから去った。

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