第10話

「つっかれた……」

「お疲れ様でした、アミュ様」

「本当、電撃訪問はやめて欲しい」


 本当そうですよねぇ、とうんうん頷くアニス。

 あの後、城を案内し、少し話して2人は帰った。時間的に言えば半日かそうでないかくらいだ。それでも私にとっては多大な疲労だった。気は遣うわ、なるだけ気品があるように振る舞わなければいけないわ、などなどで。ほんと、つかれた。昼寝しようかな……。

 ぐでっとソファに仰向けで横たわっていると、ヴィーがやって来た。


「お疲れ様です、アミュ様」

「ヴィーもお疲れぇ……」


 手だけ動かしてひらひらするとヴィーは相当疲れていることが察せられたのだろう。


「相当のようですね」

「うん……」

「それでしたら、明日、城下にあるセラに行ってみてはいかがでしょう? 」


 せら?


「セラというのはロジト教徒が住んでいる町です。もちろん他宗教の者も居ますが、基本的にはそうですね。すごく大きいというわけではないですが、活気があって、充分楽しめる所ではあると思います」


 町? 楽しい? 所々のワードに反応する。そこにヴィーがトドメの一言。


「息抜きにはピッタリだと思いますよ! 」

「行く! 」


 眠気なんて吹っ飛んで、がばっと私は起き上がった。




 そして翌日、私、アニス、ヴィーはセラにやってきた。一応白い布をまるまる被り、顔は見えないようにして来た。太陽がさんさんと輝き、お出かけにはぴったりである。

 目の前を見れば、そこにはワイワイガヤガヤと活気溢れる人々で溢れかえっていた。


「うわぁ……」

「いい所でしょう? 」


 ふふん、とどこか自慢げにヴィーが言う。


「ここは俺とアニスが育った町でもあるので、なんでもお答え出来ますよ」


 ん? 同じ町出身?


「……そうです。腐れ縁なんです」


 すんごく嫌そうな顔をしてアニスがボソッと言った。


「幼なじみなのね」

「そうです……」


 だからあんなにアニスはヴィーに対して毒吐くのか。妙に納得してしまった。


「まあまあ、色んなところ行ってみましょう! ちょうど定期市もやってるみたいですし、色んなものがありますよ! 」


 もしかしたら私よりもはしゃいでいるヴィーに連れられてセラに踏み出した。


「うん! 」




 市場には、見たことの無い柄の服や、刺激的な匂いを発する香水。それに独特な形をした魅惑的に輝く石、思わず手が出るような不思議な効果を持った魔道具。色々いっぱいあった市場はとても面白くて、次から次へと足を運ぶ、目は商品棚にしか行かずに。すると、どんっ、と人とぶつかってしまった。


「わっ、すみません」

「こちらこそす」


 相手の顔を見れば、紫の目があった。そして、相手は言葉を言い切らずに、目を見開いた。


「どうしました? 」

「もしかしてろず」

「アミ! どこだー? 」


 あっ、ヴィーの声だ。合流しなきゃだ。すみません、と言って去ろうとすると、相手は私の手をぱしっ、と掴む。


「え? 」

「俺はりあん。覚えてないか? 」

「……すみませんが、知りません」


 ごめんなさい、そう言って私は駆け足でその場を離れた。

 なんだあの人。りあん、リアン、りあん…、考えてもそんな人物は思い当たらない。でも、あの紫の目は見たことがある? 気がする。ぼんやりと昔の記憶が出てきそうで出てこない。……まぁいいや。


「アミ、様。どこいってたんです」

「ぎこちないわよヴィー」


 アニスがすかさずつっこむ。


「アミュ様じゃ変だからアミって言い始めたのヴィーでしょう」

「うう、まだなれなくて」

「でもまあ、声掛けありがとう」


 はぐれたのは私が悪いしね。上目遣いしたらヴィーは許してくれた。ふっ、チョロい。


「てか2人は何買ったの」

「私は筆記用具を」

「ふふん、聞いて驚いてください。実は」


 どぉん!

 急に爆撃音がセラに鳴り響いた。

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