第9話

「全ての人に幸福を」

「全ての人に幸福を」


 背の低い柔らかい白い髭を生やした老人の言葉に返す。彼は、にこやかなれども気品のある雰囲気が漂っている。


「ご訪問をお許し下さりありがとうございます、教主アミュローゼス様」


 目の前の人は、ヴィリアリム公国の国王その人である。


「こちらこそ」


 私も威厳を保とうと出来るだけ優雅な表情を作った。


「こちら、我が息子の皇太子、マルリスでございます」

「よろしくお願いします」


 オレンジがかった茶髪は猫を思わせるほどふわふわしていて、瞳は灰色だった。見目は整っているなぁ、というのが第一印象だった。


「◼️代目教主のアミュローゼスです」


 マルリスと私は握手を交わす。見た目によらず、手は大きく、ごつごつしていて、鍛えていることがすぐに分かった。


「さて、ではテルミャ教会へ行きましょう」

 国王が明るい声でそう言った。




「ねぇヴィー」

「なんです? アミュ様」

「私、皇太子苦手かも」

「そうですか? 」

「うん、なんとなく」


 誰もいないテルミャ教会(一般開放してないから)で国王と皇太子が祈りを捧げている間、私とヴィーは教会の近くの部屋にいた。

 なんとなくだけど、馬が合わないというか、そんな感じがした。

 気難しい顔をしていると、ヴィーは「飲み物でも取ってきましょうか? 」と緊張をほぐそうと、どこかへか行ってしまった。私はそれに有難いと思った。


「僕もあの者は嫌いだ」

「うわっ! 」


 目の前の壁からぬっとロジトが出てきた。


 だからびっくりするんだって!


 私が少し不機嫌であることが分かったら、ロジトは両手を合わせ、「すまん」と申し訳なさそうにした。


 でなんで嫌いなのさ。

「あの者、マルリスと言うやつには、うっすら魔力を感じるからだ」

 ? なんでそれが嫌な理由になるの?

「ローズお前魔力について聞かなかったのか? 」

 聞いていない。神力しか聞いていない。


 やれやれとロジトは首を振る。


「以前神力については話したな? 」

 基本的にロジトだけが持っていて、あんたが見える私もそれに準ずるだけ持ってるってやつでしょ?

「そうだ。神力と魔力は力の性質が違う。神力は固く鋭いのに対し、魔力は柔らかくまるで液体のように広がる性質を持つ。あとは、力の使用者だろう」

 使用者?

「そう、使用者だ。神力を操るのはとお前くらいだが、魔力は大体魔族か魔物のどちらか、だ。」

 普通の人間はどちらも持たないはずだよね? 話を聞いていると。


 頷くロジト。


「なのに、だ。あの皇太子から、うっすら魔力を感じた。どう考えてもおかしいんだ」


 ロジトは顔を顰める。


 私にはわからなかったけどなぁ。

「それは多分神力を上手く扱えていないからだろうな」


 むむぅ、くやしい。どや顔で言われた。


「しかし魔力を持っているものは良いことはしない、魔族が人間を襲ったりするように。……お前も気をつけた方がいい」


 それだけ言い残してロジトはすっと消えていった。

 気をつけろ、か。私には一体何がなんなのか、未だに分からない。……知っていかなきゃ、いけないな。

 その後暫くしてヴィーが持ってきたのはただの水だった。

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