第6話

「いや、先程からおひとりで話していましたよね? 」


 うん?


「いや、私は」


 するとロジトが両手で私の口を塞いできた。手を叩いて言葉を再開しようにも、ロジトは首を振った。


「他の人に僕の言葉は聞こえない。姿も見えない」


 悲しそうに彼はそういい、俯いた。思わずその表情に手を止める。くっ、顔がいいのよこの人。


「教主様? どうかなさいました? 」


 あ、そうだった。忘れてた、ヴィーゲンシュタットとアニス。

 ヴィーゲンシュタットは首を傾げ、アニスは怪訝な視線を向けている。やばいやばい。私の焦りを悟ったのか、ロジトは手を後ろへとやる。


「あ、いや、慣れなくてここに。あはは……」


 いや無理がある。無理があるけど、強引にでも今はこれで通そう。いや絶対変な人って思われたぁ。泣いた。


「……そう、なんですね。そうですよね、急に教主ってなって驚きますよね」


 仕方ない仕方ない、とうんうん頷くヴィー。優しいな!


「まあ、そうですね。ヴィーの言う通りです。しかし、アミュローゼス様、貴方様は教主なのですから、あまり変なことはして欲しくありません」


 やっぱりぃ。ってか言い方ストレート過ぎない?


「はい、ごめんなさ」

「アミュローゼス様、敬語は要りませんよ?」


 ヴィーゲンシュタットの言葉にはっとする。忘れてた。


「ご自身のお部屋へ向かいますか? 」


 アニスが気遣うように言う。

 ……迷う。疲れてるし。でも、今はまずロジトと話したい。聞きたいことがある。


「今はいいや。ちょっとここにいま」


 間違えた。


「いる」


「承知致しました。では夕飯の時刻にまたここにお迎えにあがります」

「うん、ありがとうご。……ありがとう。アニス、ヴィーゲンシュタット」


 ひらひらと手を振り、私は二人を見送った。




 ばたん、と扉が閉じる。


「さて、……一体どういうことです? ロジトさん。姿が見える声が聞こえるって」


 くるりと振り向き、ロジトと向かい合う。


「あと、なんで教主って分かったんです? 」

「……わかったわかった。ちゃんと、説明しよう」


 ロジトはそう言って少しづつ語り始めた。


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