変わらぬ日々
ずっと耳鳴りがする
熱も まだ下がらない
頭の中で
いろんな出来事がただただ
ぐるぐると駆け巡って 苦しかった
思えば本当に変わった人だった
"たまには外でランチしない?"
そう私が提案した日があった
"ああ、いいね!"
彼もそう言ってくれたので
お昼前の11時ぐらいには家を出て
目的地に着くのを楽しみに
車で向かっていた時だった
車を走らせて
まだ5分ぐらいしか経っていないのに
彼は いきなりコンビニに寄った
私が不思議に思っていると
何故か パンとチキンを買ってきて
お腹が空いた
と言って 車の中で食べ始めたのだ
"え?今から食事に行くんだよ?"
と言ってはみたが
彼は
お腹空いてんだから 仕方ない
と 聞く耳を持たなかった
その後、食事する場所に着いたわけだけど
"もう お腹空いてないから"
と 私の心配通り 何も頼まないので
私が1人 注文した物を食べてる間も
終始 つまらなそうにしていて
何故か私が 申し訳なく感じ
味わう余裕もなく 急いで食べるハメになった
他にも
出会った頃ドライブに行った時は
15分しかかからない場所に
何度も道に迷い 1時間以上かかったが
彼は悪びれる様子もなく
ただ 笑ってごまかしていたし
私の誕生日のプレゼントに
ニコニコ笑顔で何故か体重計をくれたりとか
変わってるというか
ただ空気が読めないタイプなのかな
とはずっと思っていた
ただ、普段は こう大人しい感じと言うか
人が良さそうにも見えるから
頼りなさそうな、鈍臭いタイプなのかなとも思っていた
だから
逆にそれが新鮮で
ほっとけないというか
とにかく少しずつ そんなところに
惹かれていったのは事実で
こんなに 酷い人だとは思っていなかった
メールの相手と どんな関係だろうが
実際のところ 浮気していようが していまいが
私が熱がある時に 泥酔するほど飲んで
朝方まで帰ってこなかった事は事実で
その事が 一番 許せなかった
本当なら 彼の言うように
今すぐにでも出て行ってしまいたい
なのに 熱がある身体で行くあてもない
歯痒さと悔しさと情けない気持ちで
更に憎しみが増してくる
彼にとって私の存在って
いったい何なんだろう…
あの時の彼の言葉や態度が
何度も蘇っては 胸が苦しくて涙が溢れ出してくる
それから2日
私の熱は下がらなかった
その間 彼の母親から毎日電話があった
"早希さん、あなた具合が悪いんですって?
良真のご飯はどうなってるの?"
"それじゃあ良真も大変ねぇ、私がそっちに行けたらいいんだけど、、、
家を空けるわけにもいかないのよ。"
私の心配より 息子の食事や世話の心配ばかりで
私の症状はますます悪化するばかりで
食事も喉を通らない
挙句の果てには
"まだ 治らないの?治らないのは
きっとあなたの行いが悪いからよ、
自分の行いを反省して 毎日祈りなさい!"
とまで言われた
これほどまでに辛い思いをするには
本当に 私が何かしたからなのかもしれない
私の行いが招いた結果なのかもしれない
義母からの電話がある度に
だんだんと 自分を責めるようになっていき
熱がやっと下がった頃には
完全に自分に自信が持てなくなっていた
もう彼に意見する事もなくなったし
どんなに理不尽な事を彼が口にしても
言い返す事もやめた
そんな事をしたら
次の日には お義母さんに話がいく
気になった事を聞く事もなくなった
詮索したところで 誤魔化されるだけだろうし
もっと苦しくなるだけだ
彼の 意味不明な行動 言動
全部 見て見ぬフリをする事で
これ以上 傷付きたくはなかったし
これ以上 惨めな思いもしたくはなかった
そうやって 私は自分の心を殺すしか
この悲しみから逃れる方法が見つからなかった
結婚前は 仕事をバリバリこなしていたけど
女性が外で働く事を心よく思わない夫や義母に
押し切られる形で仕事を辞めた
今は その事を一番後悔している
仕事を辞めていなかったら
すぐに この家を出て行けたかもしれない
パートしかしてない私にとって
別居も離婚も 現実的に難しい
今は ただ耐えるしかない
そんな考えが
ぐるぐると駆け巡る毎日だった
"ねえ、俺の青いシャツ知らない?"
彼は 相変わらず 自分で物を探さない
机の上 椅子の背もたれ 棚の上
そのすべてが 彼にとって
洋服のタンスになり
部屋中 洋服が積み上げられていく
それらを洗濯した後 毎回タンスの引き出しに綺麗に畳んで入れていくのだけれど
次に 引き出しを開けた時には
空き巣にでも入られたのかと思うほど
ぐちゃぐちゃになっている
"上から二番目の引き出しに 入ってなかった?"
そう促したけど 彼は 自分で見つける事ができない
いつものように 引き出しの物を引っ張り出しながら
"どこにもないよ⁈"
彼は決まって そう返してくる
彼がそう言う時は
"お前が片付けたんだから お前が見つけろよ"
という意味だ
私は 何も言わず もう一度
引き出しの中を見回すと
すぐに 探し物は見つかる
"あったよ。"
すると彼は
"だいたい、引き出しの中に入れるから
わからなくなるんだよ!"
と 吐き捨てる
言ってる意味がわからない
ならば 彼のように
部屋中の家具の上に 山積みに重ねておけば
探せると言うのだろうか?
いや違う。
前に 脱いだ上着を 椅子の背もたれに
次々と掛けていき
何枚も上着を重ねていくので
1番最初に掛けた上着の存在が見えなくなり
その上着を着ようとした時は
どこにあるか忘れてしまっていた
結局 その時も
"あの上着、どこにやったんだよ⁈"と
私の責にしていた
私が 椅子に掛けてあるその上着達を
一枚づつ剥いでいくと
その中から 探し物が見つかる
どんな状況でも 彼は自分で物を探せないのだ
まだ これはいい方で
私が把握していない服が 見当たらない事があった
"私、その服は どこにあるか知らないよ?
しばらく見ていないけど?"
一応 その時も 私が探してみるのだけれど
探すも何も
その服を しばらく見ていなくて
見当もつかない
"絶対、お前がまた 何処かに片付けたんだよ!
全く!どこにやったか わからなくなるなら
片付けるなよ!"
どの口が言うんだよと思いながらも
彼に そう言われて
"私が 忘れてしまっているのかな?"と
不安になって 一日中探し回った
何度も何度も記憶を辿って考えては見るが
思い出せない
自責の念に駆られていると ある日
仕事から帰ってきた彼が
その上着を 何食わね顔で着ている
"え?その上着、何処にあったの?"
私が びっくりして そう尋ねると
彼は
"仕事の車の中"
そう一言だけ答えた
え?何それ?
私の責にしたのに…
仕事用の車の中なら
私は把握しようがない
どんなに考えても 思い出せないはずだ
彼が自分がどこに置いたか
忘れていたのだから
忘れてしまう事は 確かに誰にだってある
けど 普通
それを 人の責にしておきながら
自分が
車の中に置き忘れた事を思い出したのなら
謝ればいい事だ
"絶対、私が 何処かに片付けたって言ってなかった?"
私が そう言うと
普通は ここで
ごめん、と返ってくるはず
だけど彼の場合は
" 俺は…
本当に お前が 何処かに片付けたと
思ってたし!"
と返ってくるのだ
反省する気も ないのかもしれないが
言い訳?…も、何かおかしいのだ
会話になっていないというか
本当に意味不明だ
"ごめん、車の中にあった。忘れてた"
と
一言 言えばいのに
彼は その言葉が出てこない
…こんな事が何度もあるのに
今日も 彼は 自分で物を探せない
いや探さない
そして私は 言い返す事もなく
黙って 彼の服を探す
彼には 何を言っても 無意味なのだ
彼の頭の中では
いつだって 私が悪いのだから…
毒男 山下 晴子 @miyatan0310
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