嘘と言い訳

どれくらい歩いたのだろうか


このまま家に戻る気にもなれなくて

少し自分の頭も冷やそと

とぼとぼと目的もなく歩いていると

近所の路地をもっと奥まで進んだ繁華街まで来ていた


繁華街は仮に2人が行ったかもしれない大型スーパーとは逆方向になる


大手フードチェーンのパスタ屋さんや

人気のコーヒーショップ

それから でっかい看板の電気屋さん

まだ営業時間前ではあるが焼鳥屋さんから居酒屋まであり

さまざまなジャンルのお店がごちゃごちゃに立ち並ぶ 適当に栄えた通りだ


可愛い雑貨屋さんには 

ちょうどこの時期かと ハロウィンのグッズがお洒落にディスプレイされていて 

通り行く人々の足を止めていた



私も それに釣られて 飾られたショーウィンドウに気をとられていると

突然iPhoneの着信音が流れた


ポケットから携帯を取り出すと

画面には 彼の名前が表示されていた


と、それと同時に 右上に出ている時間の表示も目に入り

家を飛び出してから1時間を過ぎていた事に気がついた


1時間もたって ようやく帰ってきたってわけね、、


チクリと胸が痛む


で、帰ってきて私が居ない事を不思議に思ったのか電話をかけてきたのだろうが

私は そんな彼の電話に出る気にはなれなかった


そうだ 気分転換に 前によく行ってた

フレグランスのお店に行ってみよう!

そう思って 彼からの電話を放置すると

雑念を追い払うかのように 少し早歩きに

道を急いだ


しばらく歩く最中も

一度きれた着信音が またポケットから鳴り響いた



うるさいなぁ、、、


着信音をオフにして もう一度ポケットに入れなおす


いちいち足を止めさせる その状況にうんざりしながらも

やっとフレグランスショップの前までたどり着いた




わあ!やっぱりここは最高!

店に入ると、うっとりする店内の素敵な趣きと 

癒される香に包まれて 少し気分が落ち着いてきた


ここは彼と出会う前からの

お気に入りのショップで 結婚前は1人でもよく来ていた

彼を初めて連れて一緒にきた時も 彼も たいそう気にいってくれて

よく この香が好きだとか この香は

ちょっと苦手だとか

たわいもない会話で盛り上がったっけ。


店内に並ぶ商品を順番に見て回っていると

あ、この香!良真が1番気にいってた香!

それを手に取って 匂いを嗅いだ


あゝ、この香、やっぱり いい匂い…

その香と共に 出会った頃の記憶が蘇る


こんな時でも 彼の事が浮かんできてしまう


何処か抜けていて やる事成す事裏目に出てしまう 見た目も冴えないパッとしないタイプだけど


何故か ほっとけない

いわゆる母性本能を擽るタイプというのだろうか


当時の私は そんな彼に惹かれていったのだった


…… なんか馬鹿みたい。


そう呟いて しばらく店内を見て回ると

結局先程の商品を手にし

レジで お金を払うと

居心地の良いオアシスのようなその店をあとにした



しばらく歩いて ひとけのない所を探すと

私はポケットから携帯をそっと取り出した



ー着信 6件ー


何度か かけなおしたんだ、、、


ブルブルブルブル…


その時、再び 携帯の画面に

彼からの着信がうつしだされる



''はい…"

電話に出てみた


"何してんの?"

第一声がそれだ


ごめんなんてセリフ 期待していたわけではないが まあいい。


''別に。"

"何か怒ってんの?"



話す気になれなくて、しばらく黙っていると


"なんで家居ないわけ?"

と聞いてくる


"買い忘れてたやつ、あったから"

素っ気なく答える


"じゃあ俺に電話したらいいじゃん"


"別に。…邪魔しちゃ悪いと思って"


ついつい意地悪ないい方をしてしまった


"何だよ、それ!どう意味だよ⁈"

"そのまんまの意味だけど"


やばい、言っちゃいけない事を口にする



"どこまで買い物行ってたの?"

"スーパー"

また、胸の奥がチクリ


"何処の?"

"いつものスーパーだよ!''

彼の声が苛立ちはじめる

"へぇ、、ずいぶん時間かかったね"


嘘だ。私が後を追って来たのも知らず

よく抜け抜けと、、


"理沙ちゃんが なんか色々見たいって言うからさあ!少し時間かかった!"


中学生の女の子が スーパーで 何を見るって言うのだろう



"後から私も あのスーパー行ったんだけど"



"‼︎ "

彼は一瞬黙り込むが すかさず


"あ、いや 理沙ちゃんが 大きなスーパーの方がいいとか言うからさぁ、

あっちのスーパーまで行ったんだよね"


あっちのスーパーってどこだよ、、


"なんで嘘つくの?"

 "嘘なんか ついてないし!勘違いしてただけだし!"

だんだんと 彼の声が荒くなる


それと同時に私の方は彼の言い分に怒りが込み上げてくる


たかがスーパーに買い物に行っただけだ

ちょっと遠くのスーパーに行っただけだ

なのに どうして腹が立つのだろう


けど、けど

だったら どうして最初から正直に言わないのだろう

どうして嘘をつくのだろう

しかも 嘘をついた後の言い訳が

何だろう、こう 、うまく説明できないけれど、、彼に何か正体不明の不信感を抱かせるのだ


"じゃあ 何で最初から そう言わないの?"


"いや、別に! 何処のスーパーでも関係ないだろ!"


確かにそうだ。そんな事 どうでもいい事だ。


言ってて 自分で自分が嫌になってくる

そして何故 怒っているのかもわからなくなる


が、その後 また彼が わけのわからない事を言い始めた


"なんだよ!せっかく たまには父親らしい事しようと思ったのに!"



…父親らしい事?何だそれ。

意味がわからなかった


"父親らしい事って何が??"

思わず 声を荒げる


"娘の友達が遊びに来てんだよ!買い物ぐらい連れてってやろうと思うだろ!!!"


もっともらしい言い分だ

そこだけ聞くと 納得させられそうになる


"子供の頃 友達の家によく遊びに行くと

そこのお父さんが 俺たちを買い物に連れてってくれたから

俺も そうしてあげようと思ったんだよ!"


正しいような気もするのだが、何か腑に落ちない


"だったら何で うちの子も連れて行かないの⁈何で2人だけで行くの??

準備してたあの子を置いていくなんて

変だよね??"


"…準備してた?"彼がとぼける


"準備してたよ!!!"

どんどん私の声が荒々しくなっていく


その事に本当に気付いていなかったのか


"そんなの知らないよ!あいつは行きたくないんだと思ってたし"


"そりゃそうでしょう?DVD観てる途中だったんだから!"


"はあ⁈じゃあ、別に置いてっても問題ないじゃん?"


"そういう事じゃないでしょ?

理沙ちゃんだって 同じくDVD観てたんだよ⁈"


言ってて馬鹿馬鹿しくなるのに どうしても止められない


"そこに割って入って 買い物行く?とか

誘う事自体 空気読めてないし、

そもそも うちの子が行きたくなさそうにしてたとしても(当たり前だ)

2人だけで買い物行くなんておかしいじゃない!!!

1人で行けばいい事でしょ???"


私が変なのだろか、、神経質に怒ってるだけなのだろうか

彼と話してる間にも自問自答を繰り返す


"たかが、娘の友達連れて買い物行っただけなのに ギャーギャー言うなよ!うるさい!!"


……


その通りだ。言い返す言葉もなかった。

何を本当に、ギャーギャー言ってるのだろう

こんな事で こんなにも腹が立っているのだろう

彼の何に怒っているのだろう


急に自分自身 恥ずかしく思えてきて


"もう、いいよ…"

私は その一言だけ言うと 彼からの電話を

一方的に切ってしまった



はあ…

ため息しか出てこなかった



それから 何をするわけでもなく


時々ウインドショッピングをしているフリしながら

繁華街をぶらぶらと歩いて いくらかの時間を潰した

しぶしぶ家に帰り着いたのは 電話を切った2時間後の事だった

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