第8話 ファンの一人ぐらい守ってみせるって
「どー見てもありゃ無理してるだろ」
「なんであんなになるまで放置したのよ」
「……いや、まさか一週間足らずであーなるとは思わないじゃん」
普段いる教室棟と別の特別棟にある教室から、陽野原の所属するクラスを、翔太郎、彼方と三人で覗く。
多分陽野原の席であろう場所にたむろしているガラの悪い生徒達のせいで、本人は見えないけどね。
そんな陽野原と話をした日から、週末あわせて六日ほどしか経っていないのだけれど、陽野原のことをそれなりに見ている人からすれば、わかり易すぎるほどに憔悴しきっていた。
一緒にいる二人には話していないけど何回か陽野原に声はかけてたんだよね。その度に「大丈夫です」と、突っぱねられてたんだけど。
親しい仲って訳でもないから、そんなこと言われたらもう追求出来なくて、こんな状況になってしまった。
「で、どうするのよアレ」
疑問形ではあるけど、彼方の目は選択の余地を残してくれてはなさそう。もちろん、言われなくても行くけどね? かわい──くはな──いや、見た目は可愛いけど中身は可愛くない後輩のために動くのぐらい、屁でもない。
「何もしないとか言わねーよな?」
「勿論。馬鹿にしてんの?」
こんな奴でもファンの一人ぐらい守ってみせるって。
──────────
「失礼しまーす。文芸部の部長ですけど、陽野原いるー?」
結構強めに引戸を開けて、注目を集める。正直ど陰キャなもんでビクビクしてるけど、ど陰キャ故に殴り合いとかはできないんでね。これしかないのよ。
ていうか誰か反応しない? 確かに急に来たからビビるかもだけど──
「アッハハハハハハハ」
「陽野原なんてやつはいねぇよ! ここにいるのはクソビッチだけだよ!!」
……ほー、そういう感じね。感じの悪い化粧の濃い金髪女に、チャラそうな男。ついでに、多分それについていってる取り巻きが数名。他の奴らは見て見ぬふり、ねぇ……こんな完璧にカーストが作り出されてるの初めて見たかも。
「そっかぁ……陽野原からクラス教えてもらったから来たんだけど、ほんとに居ない? 確認していい?」
「どーぞお好きにー? 多分名乗り出ないけどね?」
そう言って、チャラ男と話し合ってから人垣の向こうにいる陽野原に耳打ちする金髪。うわぁこえぇ。
でもま、許可は取れたんでね。遠慮なく行かせてもらいますよっと。
真っ直ぐ陽野原の席に向かって歩いていく。
なにか異質なものを避けるかのように、人垣は道を開けていく。トップっぽい二人は退かなかったけど。
「センパァイ? 正当な理由がないのに勝手に教室入ってきちゃダメっすよね?」
チャラ男が、僕の肩を叩く。
「まぁ確かにそうだけど、僕はあくまで部活の連絡に来てるからね。正当な理由はあるよ?」
その手を払って、自分の机で俯いている陽野原の顔を覗き込む。
「陽野原」
陽野原は答えない。
「陽野原、僕だけど?」
それでも、陽野原は答えない。
「陽野原!!」
「ッ!!」
「返事」
「……………………はい」
多少強引だったけどまぁ、いいでしょう。多分、他が許さないとは思うけど。
「そのやり方はちょっと酷いんじゃないですかー?」
ほらやっぱり。言動と顔が合ってないぞ、金髪。笑いながら言うことじゃない。
「なんで?」
「返事しなかったのに無理やりさせたじゃないですかー」
「じゃあ君はさっき陽野原に喋らないように指示してたよね?」
「言いがかりじゃないですかー?」
ニヤニヤと、証拠がないですからねー、と余裕の態度を崩さない金髪。
「じゃあそこのもう一人と、同時に何言ったか教えて?」
「「は?」」
何を言っているんだ、と二人はポカンとする。
「耳打ちしてた内容を、した側、された側、同時に言ってって言ってるの。はい、せーの」
二人は慌てて、同時に答える。
「く、クソビッチに明日何しようかって」
「あ、あいつに喋らせるなって……あ」
はい、ボロでたねぇ。女の方は頭使えるけど、男の方はバカっぽい?
「さて、これでこの場でのことに関して言い訳は出来なくなったわけだけど、今までやってきたことも白状しとく?」
「だ、誰が──」
「はい、今ので今までもやってきたってのが分かったね。ありがとう」
頭使えると思ってたけど、チャラ男の方がミスったせいでこっちも冷静さ欠いてきてんね。
「で、いじめの理由はなにかな? 好きな男の子でも取られた? それとも自分より人気になりそうだから潰した? あーあと自分より可愛いのが認めたくなかったとかもあるかなぁ……?」
かく言う僕も、そんなに冷静ではないんだけど。
「男の方は何? 振られた? プライド傷つけられちゃった? そりゃあカーストトップとしては大変だもんねぇ……」
後で報復とかされないかな。ヤンキーの兄貴連れて来たぜ! とか言われたら僕死ぬよ。マジで。
ていうか二人とも涙目になってきてるけど、僕そんな怖くないでしょ。ただニコニコしながら話してるだけだよ?
「で、そこんとこどうなの?」
「「そ、それは……」」
言い淀むってことは大体あってるって事か。
しょーもな! 相手のことなんも知らないで自分に不都合なら潰すってか!?
「自分の実力不足を人のせいにすんなよ。人を貶してる暇があったら努力しろ」
「「は、ハイィ!!」」
思ったより低い声が出たけどまぁいいか、すごいビビってくれたし。
「それじゃ陽野原、ついてきて」
「はい」
陽野原にも、話はしないとだからね。
現実主義の後輩作家〜じゃあなんで小説なんか書いてんの?〜 白音(しらおと) @shiloneko-3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。現実主義の後輩作家〜じゃあなんで小説なんか書いてんの?〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます