第7話 なんでってそりゃあ……
「そういや陽野原って部活来ない日何してんの?」
僕の質問に、陽野原は物珍しそうな表情で僕を見る。
「僕の顔になんかついてる?」
「いえ、先輩からそういう質問をしてくるのは意外だな、と」
「そうかな」
「嫌味しか言われないので」
「自分のこと省みてもらっていいですかね?」
言われてみれば、こうやって質問するのはたしかに滅多にないけどさ、嫌味しか言わない訳じゃ……ない、はず。うん。
「でもまぁ、部活来てない日は学校休んでますよ」
執筆もありますし、と陽野原はパソコンのキーボードを叩く。
「だとしたら単位足りなくない?」
結構な頻度で休んでるし、なんなら週二でしか来てない週とかあるけど。
「そこは先生と交渉したりしてますよ。私立なんで多少の融通は効きますし」
「まぁ確かに効くっちゃ効くけどさぁ……」
さすがにこのペースで休んでたら、どれだけテストで高得点を取っていたとしても厳しいものになる。なんなら進級できない可能性だってある。
「大体、なんでそんなこと聞く必要があるんですか?」
PCのディスプレイから目を離さずに、鼻で笑う陽野原。
「なんでってそりゃあ……」
お前が虐められてるって噂を聞いたからに決まってるだろ。
──────────
「はぁ? あの陽野原が?」
陽野原に探りを入れた前日、陽野原が虐められている、という情報を僕に流してきたのは、彼方だった。
「えぇ、真偽は分からないけど、色んなところから情報が流れてくるし、ほぼ本当の事でしょうね」
彼方が言うには、
曰く、陽野原悠乃は男女問わず虐められているらしい。
曰く、虐めは陰湿なものが多く、SNSでの誹謗中傷や、グループからのハブなどが多いらしい。
曰く、本人が誰にも相談していないため、情報が先生等まで伝わっていないらしい。
じゃあなんで彼方が知ってるのかって言うと、それは謎。うん、謎。マジでわからん。本人に聞くと、「とある情報通よ」としか答えてくれないからね。
ちなみに、なんで僕のところにこういう情報が回ってくるのかと言うと、それは彼方と翔太郎的には陽野原とそこそこの関係を持つのが近道になりそうだと思ったから、らしい。まぁ確かに書こうかなってやる気が出たのは陽野原が来てからだし、と僕もそれには反対はしてない。
「で、僕にどうしろって言うんだよ」
十中八九そういうことなんだろうけどさ。
「とりあえず、解決してきなさい」
──────────
「なんでってそりゃあ……」
お前が虐められてるって噂を聞いたからに決まってるだろ。
と、言いたいところではあるんだけど、今までの陽野原の行動から見ると、誤魔化されて終わる可能性が高いよね。だから陽野原から「助けてください」って言われるのがベストなんだけど、その可能性もほぼゼロと言っていい。
って事でここはとりあえず誤魔化しましょう。
「単純に陽野原の生態が知りたかったから」
「そうですか」
陽野原は、僕の返しを適当に流して、先程と同じように無言でPCに向かう。
……喧嘩してないと話が続かないってマジ? いくら喧嘩ばっかしてるとはいえもうちょっと話続くと思ってたよ。流石に邪魔するのも申し訳ないし、これ以上は、こっちから話しかけづらい。
あれ、これ詰んでる?
「先輩」
「んーなにかな!?」
タイミング良すぎない!?
「先輩って人付き合いうまそうですよね」
「そうでもないと思うよ?」
しかも割と僕が知りたかった情報に近い……!
「でもこんな愛想の悪い後輩に話しかけてくれるじゃないですか」
「後輩と仲良くするぐらい普通の事だろ」
「……まぁ、そうですけど」
ちょっと歯切れの悪い返答。これはあるか? 陽野原の方から言われるパターンあるか?
「なに? 本当はなんか困ってるとかあるの?」
ちょっと確信に近づくためにはこれぐらい必要でしょう。多分。とか思ったのが失敗だった。それはそれはもう大失敗。
「ええ、ありますよ、困ってること」
顔を上げて、こっちを見て一言。
「先輩が、私に探りを入れてることです」
ッスゥー……。いや、まだ大丈夫。カマ掛けかもしれないし。
「……なんの事?」
「……流石にこんな簡単なカマ掛けには引っかかりませんか」
「そりゃあそんな馬鹿じゃないんでね」
「はい、引っかかりましたね」
「…………………………な、なんの事かな?」
大きなため息の後、陽野原は呆れたように僕から視線を外す。
「油断しすぎです。一回で終わるのは創作の中ぐらいでしょう」
「ぐ……」
確かにそれは一理ある。2回かけて来るとは思ってないだろ! とか言いそう。
「私は大丈夫なので、先輩はどうぞご心配なく」
そういって、パタンとPCを閉じて、鞄の中へ。この話は終わりって事か。
「大丈夫なら、ちゃんと学校来な? まさか、ビビってるわけないよね?」
「もちろん、あなたが思うようなことは何もないので」
自信満々で言い放ち、部室を出ていく陽野原の手は、ほんの少しだけ震えていた。
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