第6話 そういやあいつの笑った顔……

「………………」

「………………」

「…………………………」

「…………………………」


 部活の時間が終わり、学校からの帰り道。中学の校区ギリギリかつ高校は徒歩圏内という特殊な立地に我が家がある為、いつもは一人で歩く道なのだが、なぜか今日は隣を歩く人物がいる。


「……なんでここにいんの?」

「家がこっちなので」

「嘘つけ」


 あなたいっつも校門出る時僕と逆側に曲がってたでしょうが。


「誰が好き好んで嫌いな人と一緒に歩きますか」

「じゃあなんで今日は一緒なわけ?」

「誰もあなたが嫌いとは言ってませんが」

「僕ら帰る時間って丁度運動部と文化部の部活終了時間の間だから、周りほぼ人いないんだよね」

「…………チッ」


 ついにこいつ先輩に向かって舌打ちしやがったんですけど! しかも僕嫌いって言われてかつ舌打ちされてるんですけど!? 泣くが!?


 ……いやまぁ、これぐらいで泣くわけないけどさ。


「で、なんで今日は一緒なわけ?」

「……気が向いたからですが」

「気が向いたぐらいで嫌いな奴と歩けんの? すごいね」

「貴方ほんっとに嫌味言うことだけに特化してますよね。普通自分に対する評価が変わったとか考えませんか?」


 頭おかしいんじゃないですか、と陽野原は不機嫌そうに唸る。だってあんな初対面から嫌いですオーラ出されてたら好意的に転じるなんて思わないでしょ、それこそ小説じゃあるまいし。


「……てか陽野原みたいな美しょ──目立つ奴がいたら流石に中学の頃とか有名になってると思うんだけど、なんで気づかなかったんかなぁ」


 危ねぇ……陽野原のこと美少女とか言いかけた。いや確かに美少女ではあるんだけどさ、なんかこう……言いたくない感じ?


 そんな、変なプライド拗らせてる僕の半分独り言みたいな質問に、陽野原は親切にも答える。


「中学の頃は黒染めしてましたから」

「え?」


 その髪を? 染めてた?


「黒染めして黒のカラコンつけて伊達メガネしておさげにしてました」

「そこまでする……?」

「髪の色を笑われるのは当時の私には耐えられなかったので」


 目もですけど、と陽野原は淡々と言う。


 まぁ確かに、小中学校の頃は出る杭は打たれるってのが普通だから、その髪と目じゃ周りからの反感も買うか……。


「でも、じゃあなんで高校に入って全部やめたのさ」


 その点、高校に入れば少しは多様性が認められる節はあるとはいえ、それでも一部の人からは奇異の目で見られることもあるだろうし、整った容姿から無駄な反感を買うことだって多いはず。


 そう思って陽野原を見ると、陽野原は顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいた。なんで?


「……おさげメガネが逆に目立っていじめられたからです」

「……なんて?」


 僕の聞き間違いかもしれないからもっかい聞いとこう。


「おさげメガネが逆に目立っていじめられたからからです!!」


 相当言いたくなかったらしく、顔が真っ赤な陽野原。でも一度言い出したら止まらないのかその言葉が途切れることはない。


「人が黙って本読んでれば水はかけられる、教科書類は隠されるし、体育着はゴミと一緒に捨てられる! なんで! 全部お金がかかるものを!!」


 正直、僕は、大変だったね……と相槌を打つしかない。もうどうすることも出来ないし、変に踏み込むべきことでもなさそうだし。


「ちょっと髪が伸びてきてつむじとか生え際とかが白くなったら白髪しらがだとかババアだとか……!! 私のはアルビノの白髪はくはつであって加齢でメラニン色素がなくなってできる白髪しらがじゃない!!」

「え、アルビノだったんだ」


 逆に聞きますけどこんだけアルビノの特徴が揃ってて気づかないんですか! とそのままの勢いで怒鳴る陽野原。


「いや、アルビノだったとしても偏見持ってる人が多いし、そういうのを嫌がる人だったら悪いから自分からは聞かないしそう思わないようにしてる」


 白人とのハーフって可能性とかだってあるし。


 ちなみにアルビノは先天的に起こるメラニン色素が生成できなくなる病気で、日本でこそ二次元という舞台の中で美しいキャラとして描かれることが多いが、世界的に見ればまだまだ偏見が多く、臓器などが呪術に使われることもあるのだとか。現実世界で呪術って何すんだよって話ではある。


 閑話休題。


 一方陽野原はと言うと、なんとも言えない顔で僕を見て、呟く。


「なんかすごい配慮されてて悔しい……」

「人を配慮が出来ない人みたいに言わないでくれる?」


 流石に一般的な配慮ぐらい持ち合わせてますが?


 だから何言ってんだこの人みたいな顔で見るのやめなさい。


「っと、僕の家ここなんだけど、陽野原の家は?」


 結構だらだら歩いてたせいでいつもの二倍近い時間かかっての帰宅になったな。だからどうしたって感じではあるけど。


 てかなんで陽野原はこんなまじまじと僕の家見てんの。普通の一軒家ですけど。


「ふーん?」

「あの、陽野原さん?」

「へ? あ、はい」


 そんな集中して見るもんですかね、僕の家。


「陽野原の家まであとどれぐらい? って聞いてるんだけど」


 まだ結構かかるなら送るっていうのも考えなきゃだし。流石にもう暗くなり始めてるからね。


「あと三分もあれば着きますよ」


 そう言って、陽野原が指をさすのは一度でいいから入ってみたいと思っていた近くの高級マンション。


「羨ましいんですか?」


 ニヤニヤと人を腹立たせるためだけに笑う陽野原。容姿が整ってるせいでなお腹が立つ。


「お前容姿だけは綺麗なんだから、気をつけて帰れよ」

「……だけは余計ですが、その言葉はありがたく貰っておきます」


 ちょっと恨み込めて言ったつもりだったんだけど、思ったよりサラッと受け流されたんだが。


「では」


 ぺこりとお辞儀して歩き出す陽野原を見送って、玄関に入ってふと思った。


「そういやあいつの笑った顔初めて見たな」










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