第4話 ほんといい友人だよ。

「僕に、もう一回小説を書かせて欲しい」


 正確にはもう一回書きたい、だね。今の僕じゃ書けないし。


「本気なの?」


 いつになく真剣な顔で、彼方が僕を見る。


「本気だよ。遊びでも冗談でもない。そんな軽口を叩けるような事じゃないのも二人は分かってるでしょ?」


 だから僕も、同じ様に彼方を見つめ返す。


「……もう一度書こうと思った理由は?」

「こんな奴でもまだ待ってくれている読者が居ることがわかったから?」


 流石にあそこまですごいの見せられたらチャレンジぐらいしてみたくなるものじゃない? あんな、自分で修正するなんて聞いたこともないことされたら、ね?


 そういうと、彼方はじゃあ何も言えない、というように黙り込む。


 どうも翔太郎は反対みたいだけど。


「俺は反対だぞ」

「……理由は?」

「リスクが大きすぎる」


 まぁごもっともな意見だね。あの時も彼方より僕といただけはある。


「俺はもうあんなボロボロの想汰を見たくないからな。そっちが覚悟できてても、俺はそんな覚悟する気はないぞ」


 言いたいことはまだまだある、と翔太郎は続ける。


「そもそも、まだ待ってくれている読者がいる、だぁ? そんなもんごまんといるわ! ……でも、だからこそ、そんな理由で小説をまた書くなんて言わないでくれ。また、読者のせいで壊れる想汰を見たくはない……!」

「………………」


 やっぱそうかぁ……。彼方も、口には出てないけど、これが本音っぽいしなぁ。


「彼方も、まだ言いたいことがあるなら言ってくれていいよ?」


 まずは二人の本音が聞きたいって今日この場を作ったわけだし。


「私は……」


 彼方は僕と翔太郎を交互に見て、覚悟を決めたように口を開く。


「私は、想汰が決めたことなら応援したい。想汰の書くお話は好きだし。……でも、読者のために……多分文芸部に入ってきた女の子よね? その子のために、もう一度書こうっていうのは違うんじゃないかしら」

「……やっぱりそうだよね。と言いたいところなんだけど、正直僕もなんでまた書こうと思ってるのか分からないんだよね」


 待ってくれている読者がいるから、なんてさっきは言ったけど、あれは僕なりに僕の中でこの気持ちを丸め込むために作った嘘みたいなものだし。


「「……え?」」


 二人とも目を点にしてポカンとした表情で僕を見る。


「え、じゃあ今まで聞かれてたのって……」

「無駄とは言わないけどまぁ……」


 二人の本音聞くことなんてあんまりないし貴重だったよ?


「趣味悪いぞ」

「ごめんて」


 机の下で翔太郎に蹴られる。痛い痛い。


「まぁ二人が僕がなんかしようとしたら止めてくれる良い奴だって分かったし、許して?」


 手を合わせて謝ると、二人ともため息をついて、諦めたような顔で僕を見る。


「まぁ、こいつがこういう回りくどいやり方ばっかりするやつだって忘れてた私達が悪いわね」

「そうだな、て事でお前は無罪だ。想汰」

「ちょっと納得いかないけど、まぁよしとしますか」

「……想汰ってホント皮肉とか効かないわよね」


 また溜め息をつかれた。二人ともどんだけ僕をめんどくさいやつだと思ってるんだよ。悲しい……!


「はいはい、泣き真似なんかしてなくていいから、本題に戻れ本題に。……それで、自分がまた小説の世界に戻りたいのにその理由が分からない馬鹿野郎は俺たちに何してもらいたいんだよ」


 ジトーっとした目で翔太郎が僕を見る。


「女の子にそんな目で見られたらキュンキュンしちゃう……!」

「おい」

「はい、すいません。言います。言わせてください」


 小ボケはお気に召さなかったらしい。いや、ほんとまじで反省してるんで、許してください。はい。


 ……正直こんなこと頼むの恥ずかしいんだよね。なんていうか、全部二人に頼ってるみたいで。実際頼ってると言っても過言じゃないんだけども、まだ僕の中にある米粒みたいなプライドがそれを認めてない。まだどこかでは一人でやれるって思ってる。


 でも、このままじゃ何も変わらないってのも事実。一人で足踏みしてるぐらいなら、手を借りて進んだ方が絶対いい。


 大きく深呼吸する僕を、二人はにこにこしながら見てる。なんか子供扱いされてるみたいで癪だな。まぁいいや、そんなことより大事なこと。


「書く理由探しと、書けるようになるためのサポート頼める?」




「「任せ」」


 すっごい満面の笑みなのがちょっと癪だけど、ほんとにいい友人だよ。二人は。










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