第1話 第一印象? 最悪だよ
「今日はこれで以上だが、この後は部活動集会があるからなー。今年から部長になるやつもいるんだからしっかり先輩らしいとこ見せるんだぞー」
LHRの終わり、我が二年一組の担任のすず姉こと
そしてこれから、とてもつまらない新入生を迎える部集会の時間である。
新入生が来れば楽しいのかもしれないけど、多分僕の在籍する部活には来ない。
僕の前の年なんかゼロで、部の存続の危機だってすず姉に頼まれなければ、僕も多分入らなかったような部活だよ? 来るわけないって。
「大体、文芸部なのに実力主義って意味わからないし」
逆にここまで存続してきたことが奇跡に近い。
入部資格が書籍化またはそれに準ずる成績を残していることってどんだけ狭き門だよって話。
それが噂になって流れるからここに人が集まったって可能性もないわけではないけども。
そんなことを考えているうちに、文芸部の部室に到着する。
部室棟で一番広くて、狭い部室。ドアを開けて中に入ると、そこには一面、本、本、本。
天井ギリギリの高さまである本棚と、そこから溢れた本だらけ。最初は掃除とか整理とかしてたけど、量が多すぎて諦めた。無理。
そんな、本好きにはたまらない空間の最奥に、やっと見えてきた机。僕だけの楽園。
と、思ってたのだけれども、そこには、僕の予想に反して、知らない誰かの鞄があった。
「……へぇ」
絵になる。まず頭に浮かんだのは、そんな言葉。
美少女が、窓に背を向けて本を読んでいるだけ。でも、それだけで、完成した絵のようだった。
窓から差す西日が、物語の中だけだと思っていた美しい純白の髪を玉虫色に輝かせ、宙に舞う埃が、キラキラと光を反射して彼女の周囲を彩る。
垂れた髪の隙間から見える瞳は暗く陰になっていても赤く深く、茜色に光っていて、顔は、幼さを残しつつ凛とした美しさがあった。
個人的に残念なところがあるとすれば、読んでる本が
……まぁそれぐらい頭の中で補填できるけどさ。
「これでハードカバーの本でブレザーだったら完璧だったのになぁ」
「は?」
……ほぼ口にでてないぐらいの声だったんですが? なんで聞こえてんの? ていうか反応早くない?
言いたいことは沢山あるけど、まず一つだけ言わせて欲しい。
「態度悪すぎない?」
「入ってくるなり人を舐めるように見る人よりマシだと思いますが」
「嫌なら嫌と言ってくれれば僕はやらないが」
「声を出されるまで気づいていませんでした」
「気づいてなかったのによく間髪入れずに『は?』なんて言えたね」
「……嘘をつきました。本当はもう少し前から気付いていました」
「じゃあ君は気づいた時点で僕に挨拶なり拒絶なりをすべきだったんじゃないかい?」
「本を読んでいたので」
「その駄作を?」
数々のウェブ小説サイトのランキングを総ナメにして、大きな期待を背負ってデビューして、その期待に答えられなかった奴の作品を?
「……貴方も、この作品を侮辱するんですか?」
「褒められるところがないだろ?」
ウェブで人気だった作品の改稿にも関わらず二度も販売延期、その上出来上がったものはウェブ版とは似ても似つかない訳の分からない何か。
でも、目の前の少女にとっては違うらしい。
「……この人の文は、こうじゃない」
「と言うと?」
「この付箋は、原作と違う部分をまとめたもの。そして、私がそこを修正して、意味が通るように直したものです」
確かに、びっしりとはられた付箋には、何かが書いてあった。
「問題だらけじゃないか」
「えぇまぁ、でも、本当のあの人が書いた文は、赤で直した方なので」
「非現実的だな」
「いいえ、そんなことはありませんよ。これは、結果ですから」
「結果?」
「はい、貴方のような人に言うのは癪ですが、これが、私が出した結果です」
本を閉じて、その小柄な身体で、僕を見上げるように睨む。
「申し遅れました、一部では、『想井 望の再来』などと呼ばれております。ペンネーム、野原悠、陽野原悠乃と言います。もう会うことはないと思いますが、以後お見知り置きを、変態」
──え? 第一印象? 最悪だよ。
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マジでこのペンネームとかでやってる人がいないか心配です。
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