第24話 ジリジリと……
こんな居心地の悪い場所でテントを張るなど、みんなには迷惑をかけていますが、失った翼の痛みで車の運転は難しい状況でした。
「はい、麻酔です。効けばいいのですが……」
アメリアが私の傷痕に注射してくれましたが、多少はマシな程度で効果は限定的なものでした。
「回復魔法が効くといいのですが、私にはあらゆる魔法が効かないので、ここは我慢しかありません」
私は小さく息を吐きました。
「とても痛々しいです。なんとかならないものでしょうか……」
パステルが小さく呟きました。
「一時間くらいで傷口は塞がります。そのあとの翼の回復は早いのですが、ちゃんと飛べるようになるまでには年単位の時間が掛かります。その間に、世界は……」
私はため息を吐きました。
「今は傷の回復に努めましょう。後のことは後のことです」
パステルが笑みを浮かべました。
「そうですね。焦ってもどうにもなりません。情けない……」
私は泣きたくなってしまいました。
「うん、情けないと思ってるなら、その挽回を考えろ。その方が建設的だ」
拳銃を手入れしながら、ジーナが呟くようにいいました。
「そうですね。分かっているのですが……」
「まあ、今は休め。情けないというより、恐怖心の方が強いだろ。このテントは結界に守られている。寝ちまえ」
ジーナが笑みを浮かべました。
「寝るですか。起きたら数百年後ですよ」
私は小さく笑みを浮かべました。
キッチンではリナとララがなにやら、料理をしていました。
すっかり忘れていましたが、時刻はすでに夜です。
こんな場所でテントを張るなど、みなさんも度胸があるなと思います。
「……あと一ヶ月くらいでしょうか。小さな翼が生えてきます。しかし、これでは幼子でもない限り、飛ぶ事は不可能です。私がちゃんと飛べるようになるまでには、早くて一年はかかるでしょう。ドラゴン狩りの方は喜ぶと思いますよ。逃げられないので」
私は苦笑しました。
冗談でもいわないと、やっていられなくなったのです。
「そう捨て鉢にならないで下さい。なければないでできる事はあるはずです」
パステルが笑みを浮かべました。
「……お願いがあります。後ほど」
私が小声で呟くと、パステルは真顔で小さく頷いきました。
「ほれ、今日は食って寝るぞ。どこだって寝られるのが、冒険者ってもんだ」
ジーナが笑いました。
その夜半、私はまだ起きていたパステルを目で呼びました。
なるべく音を立てないようにしてパステルが近寄ってくると、私は空間ポケットから赤い石版を取り出しました。
「もう、これしかないのです。神のアルテミスが敗北した以上、他に呼べる神はいないので対処できません。原始魔法といいます。これは、二人が協力しないと成り立ちません。上の行は『破壊』を意味します。下段は『再生』。私が破壊をしますので、パステルには下段の『再生』をお願いします。この一ヶ月の間にどれだけ被害が広がったか分かりませんが、もはや手のつけようがない事態になっている事は察しがつきます。あれを、ぶっ壊すにはこれしかありません」
私は小さく頷きました。
「あの、なぜ私なんですか。他にも優秀な魔法使いがいるのに……」
「魔法を深く知っている方ではダメなのです。こんな危険な魔法を絶対に使わないという、当たり前の倫理が働いてタイミングが合わないでしょう。私が破壊をしてからぴったり一秒後に、再生の呪文の詠唱をはじめないといけないのです。破壊を使った術者はその身も崩壊してしまいます。それなので、あなたにお願いするしかないのです。こうなったら、総力戦ですよ。もちろん、私だって嫌ですよ。でも、このままでは同じ事。あるいは、世界はもう全滅しているかもしれません。ヤケクソではありません。私なりに考えた最終手段です」
私は小さく息を吐きました。
「……そうですか。そこまでいうなら協力します。でも、読み方が分かりません。呪文も長いです。どうしたら」
パステルが頭を抱えてしまいました。
「それは私が教えますし、呪文も最大限短くするように調整してみます。破壊さえ行わなければ、再生の魔法は発動しないので、読む練習は問題ありません。さて、それはいいとして、『温存戦力』を開放しますか」
私は苦笑して、毒素の具合を考えてテントの出入り口に結界を張ってから、車に積んでおいた青いオーブを持ちだした。
「魂の欠片、ケトン体。これからでも、蘇生は可能なんです。毒素はまだ少し濃いですが、直ちに健康被害となることはないでしょう。問題は、蘇生した途端に攻撃されないかですが、それは甘んじて受け入れましょう。今の私はガラクタ同然ですから」
私は苦笑して、人目に付いてはならない秘術を使う事を決心しました。
地面に爪で魔法陣を描き、オーブを中央において呪文を唱えました。
魔法陣が光りオーブが割れると、厳しい目付きをしたスコーンとビスコッティが現れ、しこたま攻撃魔法の雨を浴びました。
「……いいですよ。どんどんやってください」
私は笑みを浮かべました。
そのうち私の態度に違和感を憶えたのか、スコーンがポカンとしビスコッティがキョトンとしました。
「あ、あれ、なんかあったの?」
スコーンが不思議そうに聞いてきました。
「色々ありました。結論を先にいうと、この世界はもう崩壊してる可能性があります。それが元に戻せるなら、もっと好きなだけ攻撃魔法を撃って下さい。総力戦なんです。協力して頂けないとはじまらないのです」
私がため息を吐くと、スコーンとビスコッティが顔を見合わせた。
「あの、ゆっくり聞かせてください。この淀んだ空気と悪臭だけで、なにかあったのは分かります」
ビスコッティが笑みを浮かべました。
「ねぇ、ビスコッティ。エレーナの翼がちっこくなっちゃってるよ。絶対なんかあった!!」
スコーンが小さく息を吐きました。
「それにやられた傷です。おかげで飛べません。治すには一年はかかります。その間に、この世界は猫の子一匹いない状況になっているでしょうね。聞いてみましょうか」
私は車の無線機の電源を入れ、非常用にしたままにしておいたチャンネルはそのままで、 マイクを取った。
「こちらはフィッシャーズマークのエレーナ。聞こえていたら応答願います」
しかし、雑音だけで応答はありませんでした。
「この有様です。周辺に誰もいない状態で、完全に孤立してしまっているんです。この場から動けばあるいは応答があるかもしれませんが、私はここを前線基地として固める事にしました。一番近いようなので……」
「それは分かったよ。ただならぬ事って。でも、詳細が分からないとなにもできないよ、説明して!!」
スコーンが小さく息を吐きました。
「それはテント内で。いかな毒素の濃度が下がったとはいえ、無害ではないですからね」
私は二人を連れて、テントに入りました。
「みなさん、恨みっこなしです。揉めている場合ではありません。スコーンとビスコッティも戦列に加わってくれそうです。アルテミス、あの画像を投写できますか?」
「うん、しっかり記憶に残しておいた。その辺りに表示するから待って」
アルテミスは目を閉じ、テントの壁にあの海に浮かぶ巨大な花を映しだしました。
「うぎゃあ、なんじゃこりゃ!?」
スコーンが声を上げました。
「な、なんと……」
ビスコッティが目を丸くしました。
他にもまだ見ていない面々が、半分口を開けて見つめた。
「ここから伸びた茎に咲く花から、猛毒が吹き出ています。このフィッシャーズマークにもあったのですが、それは無事に破壊しました。しかし、この無数の茎の数だけ花が咲くとしたら……わかりますね。世界は猛毒に犯されていると考えても、おかしくはないでしょう」
私はため息を吐きました。
「だったら、この花を破壊すれば……」
ビスコッティが最もな事をいいました。
「それを試した結果、私は翼を失い、そこにいるアルテミスすら歯が立ちませんでした。信じられないかもしれませんが、アルテミスは究極の異界である神界に住む文字通り神なんです。絶大な力を持っていますが、それすら歯が立たない……どうにもなりません」
「わ、分かったけどみんなで自己紹介しよう。ゴチャゴチャで分からなくなってきたよ」
スコーンが頭を掻きました。
「そうですね。少し落ち着きましょう」
私は苦笑しました。
「……なるほど、状況は分かったよ。まさに最悪だね。世界中回って虹色ボールを投下しようにも、エレーナは飛べないしその程度じゃ意味がない。でも、その花を全部壊すなんて現実的じゃないね。お手上げだよ」
スコーンが頭を掻きました。
「師匠、気象操作です。一気に気温を下げれば……」
ビスコッティが魔法書を読みはじめました。
「それダメなんだ。神界ってここよりも過酷な環境なんだけど、何があっても枯れないんだよ。せいぜい、道端に生えてるちっぽけな雑草の一つなんだけど、ここにきたら環境がよくなって、バカみたいに成長しちゃったんだろうね」
アルテミスが頷きました。
「ビスコッティ、気象操作なんかやったらさらに悪化するよ。それに、そんなに頑丈ならどうにもならない。ぶっ壊すのもダメ。どうしろっていうの……」
スコーンが小さく息を吐きました。
私とパステルはそっと目を合わせ、ちょっと外に出てくるといってテントを出ました。
「呪文を三十四文字に纏めて現代語に翻訳しました。『再生』なので、何度練習してもいいですよ」
私は青い石版をパステルに渡しました。
「こ、これが。終わってから一秒後ですね」
「はい、そうです。私はこの赤い石版を……」
私が呟いた時、背後で足音が聞こえました。
「やっぱり使う気だね」
厳しい顔をしたスコーンが、私を睨み付けてきました。
「他に手がないんです。一度全部壊さないと、直せるものも直せないんですよ」
私も睨み返してスコ-ンに返しました。
「……もし、エレーナが魔法使いなら、今頃ぶん殴ってるよ。パステルもね。魔法って知ってる? 魔を呼ぶ法術なんだよ。それ、最悪の魔法だよ。研究したけど、それ『破壊』を使ったら術者自身まで消えちゃう。その再生を他人に託す。そんな無責任な魔法はないよ。それを、コソコソやらないで欲しいな。手伝える事があるかもしれないのに」
スコーンは笑みを浮かべました。
「世界全員の命はアルテミスの紹介で、冥府の番人であるハデスが協力してくれる事になっています。あなた方も含めて、世界は一度ゼロに戻る……寸前でパステルの再生魔法です。消えるのは毒に犯された大地と私だけですが、首尾よく成功すれば私も大地も戻ります。それで、きっかり一秒後なんです。誤差は私が調整しますが、三秒以上ずれると取り返しがつきません。そこで、魔法に対して絶対的なポリシーがある経験を積んだ魔法使いではなく、あまり抵抗がないかもしれないパステルにお願いしているのです。別にパステルをバカにしていたわけではありませんし、この魔法の責任の重さは重々承知しています」
私はため息を吐きました。
「そっか、わかってるならいいよ。パステルの石版ちょっと見せてくれる?」
「はい」
スコーンの問いに、パステルが応じました。
「うん……これ、ビスコッティが得意だね。合成魔法でいこう。パステルも一人じゃ不安でしょ?」
スコーンが笑みを浮かべた。
「ご、合成魔法ってなんですか?」
「うん、二人で合わせて使う魔法の事だよ。これなら、責任を二分割できるでしょ。安全だし、ビスコッティはあれでそれなりの経験があるから、覚悟さえ決めてくれればしっかりパステルのサポートをしてくれるよ」
スコーンが笑み浮かべた。
「それはありがたいです。具体的に『破壊』がどんなものか分からないので、自信がなかったのです」
パステルが笑みを浮かべた。
「それで、エレーナだね。翻訳してないの?」
「いえ、一応はしていますが、これを使ったらスコーンまで消えてしまいますよ」
私は赤い石版をスコーンにみせた。
「ホントだ、訳してある……うん、得意分野。ぶっ壊すのは得意だから。それにしても、たった三文字。怖いねぇ」
スコーンがニヤッと笑みを浮かべました。
「責任は半分っこ。まさか、つまらない陽動とかやらせる気じゃなかったよね。怒るよ!!」
……当たり。
「そ、そんな事はないです。でも、結果としてそうなるだけで!?」
「エレーナは嘘がヘタだねぇ。ビスコッティの方がまだマシな顔をするよ。分かった、決行はいつ?」
「それが……翼を失ってしまった事が原因で、本来より大幅に魔力が下がってしまっています。尻尾と翼が魔力を司っているので。今は、簡単な結界や虹色ボールしか作れません。とても決行できないのです。翼がギリギリまで回復するためには、最低でも一年かかります。最高潮までとなると、約二年くらいです。やる事がやる事なので、最高のコンディションで臨みたいです。そうなると……」
私はため息を吐きました。
「分かった。エレーナが回復するまで、この村を避難場所にしよう。この国には発展途上だけど飛行機もあるし、まだ世界には生き残っている人がいるかもしれない。かき集めてくる価値はあると思うよ」
スコーンが笑みを浮かべました。
「え、えっと、そんな……」
「心配してるだけじゃ意味がないよ。ビスコッティ、結界の準備。エレーナは虹色ボールをばら撒いたら食料や水の確保に回って。パステルはエレーナの車に同乗して案内してあげて。よし、はじめるよ!!」
スコーンが笑みを浮かべました。
私はみた事がなかったのですが、決死の覚悟で防護服に身を包んだジーナとリナが、ここから近くの工場から飛行機を調達し、毎日世界の各地を回って生き残った人たちをフィッシャーズマークに集めはじめました。
同時に、私は最大出力の無線で避難所の開設を呼びかけ、たまたま手に入れられたらしい防護服姿の人たちを向かい入れ、私とパステルが無線で呼びかけながら、そこらのマーケットなどで仕入れた食料や水を洗浄しては、ララとなんとか無事で逃げ込んできたトロキが炊き出しを行っていました。
運良く完全密閉の車で助かったセリカさんとカレンさんもやってきて、みんなの手伝いをはじめましたが、完全に把握したわけではありませんが、命があった人間はわずか百名足らずでした。
やや遅れてエルフの皆さんも集まり初め、いつものプライド意識を持っている場合ではなく、避難所で身を寄せ合っていました。
「翼を失って半年ですか。まだ、お話しになりませんね」
外回りから帰ってきた私は車のまま結界をくぐり、防護服姿のパステルがマスクを取って頭を振りました。
「今日も収穫ゼロでしたね。スコーンとビスコッティは、相変わらずテントの中で魔法研究中かもしれません」
パステルが笑いました。
「なにか、得策があればいいですけれど、原始魔法は単純ゆえに難しいのです。誤魔化しが効かないので、研究には骨が折れると思います」
私はパステルと一緒にテントに向かいました。
テントの中では、うずたかく魔法書を積み上げ、ノートにガリガリ書いているスコーンとビスコッティの姿がありました。
「どうですか?」
私は背負っていたネギを入れた籠を床に置き、小さく笑みを浮かべました。
「うーん、隙がないよ。まあ、壊すか直すだけだもんね。これが、単純すぎて難しいんだよ。しかも、そのくせ必要魔力が高いし……」
スコーンが頭を掻いた。
「そうですよね。私も何度も改良を試みたのですが、結局ここに行き着いてしまう。可能だったのは、呪文の短縮と現代語への翻訳だけでした」
私は小さく息を吐いた。
「はい、これは厄介です。私はパステルと呪文詠唱のタイミングを合わせる練習をしてきます。少しでもずれると、全く意味がないので」
ビスコッティが笑みを浮かべ、パステルと一緒に呪文を呟き始めた。
『破壊』の方は危険すぎて出来ませんが、スコーンと最初の一文字だけ合わせる練習はできました。
これが成功すれば、あとはなんとかなる。そのような感じでした。
「最初が肝心なんだよ。ここさえピッタリなら、あとは合わせられるから。でも、この呪文、もっとなんとかならなかったの。冗談みたいだよ」
スコーンが苦笑しました。
「現代語に訳すとそうなるのです。これでも、意味さえ分かっていれば発動します」
私は笑いました。
「そっか、ならしょうがないね。再生の方はたった三文字。でも、ビスコッティだと合わせられないんだよね。こりゃ大変だ」
必死に呪文を合わせようとしては失敗を繰り返すビスコッティとパステルをみて、私はあなたたちが要なんですよと胸中で呟きました。
『こちらジーナ。間もなく臨時滑走路に着陸する。他に生存者の見込みなし。危険なフライトのため、この便をもって捜索を打ち切る』
ブォーンと音が聞こえ、飛行機を操縦しているジーナの声が、車の無線に届きました。
「分かりました。お疲れ様でした」
私は無線に応答し、小さく息を吐きました。
結局、他に生存者はなく、私は覚悟を決めました。
世界にはもうこれしか生存者はいない。
なんの保護もない動物はイチコロでしょう。魔物も叱り。全てが終わった……。
この辺りは毒素が消えているので、植物に目立った影響はないようですが、ジーナの話によると、他の地域は植物も全滅してしまっているようで、いよいよ後がなくなってきました。
「まだ翼は半分。魔力は……」
焦ってチェックしてみましたが、とても決行を決断できる状態ではありませんでした。
「……ここがもつかどうか。悔しいです」
私は小さく息を吐きました。
「どうしました?」
避難者の健康を見守っているアメリアが、笑顔で私に声を掛けてきました。
「はい、自分が嫌になって……」
私はため息を吐きました。
「自分を責めてはいけません。あなただけではないのですよ。協力者がたくさんいます。これ飲んでください」
アメリアが差し出してくれた薬瓶を丸呑みして、私は小さく息を吐きました。
「ありがとうございます。あの、麻酔ありますか。どうにも翼の付け根がむず痒いというか、微妙に痛いというか……」
「そうですか。ちょっとみてみましょう」
アメリアが私の体をよじ登り、翼の付け根辺りを弄りはじめました。
「必要なのは麻酔ではありません。化膿しているので、抗生物質入りの軟膏でも塗っておきましょう」
アメリアは、どうやってか私の大きな翼の付け根全体に、なにかの薬を塗り始めました。
「さすがに大量に必要ですね。かさぶたになっている箇所もありますし、これは辛いでしょう」
アメリアはしばらく私の処置を続け、私の体を上手く降りてきました。
「ちょっとしみるかもしれませんが、薬が効いている証拠なので大丈夫です。先ほど渡した薬瓶の薬が効いてくれば、少し気が楽になるかもしれません。あまり、思いつめないように」
アメリアが笑みを浮かべて去っていき、私は小さく息を吐きました。
「ため息しか出ませんね。せめて、もっと早く育てば……」
私は呪文を唱え、私の翼の周りだけに制御して、可能な限り最大に時間を早めました。
しかし、これでも十分程度が限界で、無理に成長させた分激痛が走っただけでした。
「ダメですね。焦っても変わらないのは分かっていますが、焦ります」
私はまたため息を吐きました。
そこに、今度はビスコッティがやってきました。
「あれ、元気ないですね。私を倒したリフレクトを教えて頂きたいのですが」
ビスコッティが笑みを浮かべました。
「あれですか。簡単なんです。体全体を逆位相の結界で包むだけなんです。そうすると、本来は私に向かってくるはずの攻撃魔法のなにかが、クルッと向きを変えて飛んできたそのまま軌道で飛んでいくだけです。撃った後、素早く移動されると当たらないので、そんなに便利な魔法ではないのです」
私は苦笑しました。
「狙撃と一緒ですね。撃ったら逃げる。基本を忘れていました」
ビスコッティが笑みを浮かべると、怒り顔ですっ飛んできたスコーンがビスコッティにドロップキックを叩き込み、そのまま二人一緒になってどこかに転がっていってしまいました。
「元気でいいですね。心の支えの一つです」
アメリアの薬が多少効いたのか、気持ちが少し楽になってきました。
「あの、やっと揃いましたよ。『再生』はバッチリです!!」
やってきたパステルが、笑みを浮かべて元気に声を上げました。
「ありがとうございます。あとはこちらですが、まだこの翼では不可能に近いです。確信が持てるまで実行できないので、もう少し待って下さい」
私は苦笑しました。
壊して直すだけ。それだけですが、シンプルな行動だけに怖い。
それが、私の本音でした。
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