第22話 メンバー増えました

 翌朝、私たちがテントの撤収をしていると、一頭のドラゴンがすぐ近くに舞い降りてきました。

 真っ白な竜鱗に蒼い目。滅多に見かけないホワイトドラゴンさんでした。

「これは朝早くから失礼した。我はただ近くを通り過ぎた者だ。ファイア・ドラゴン殿、しかもエンシェントドラゴンとなれば、挨拶の一つでもしなければと訪れたものだ。無論、害意はない」

 ホワイトドラゴンさんは一礼しました。

「これはご丁寧に。私はエレーナと名乗る、ただの『ファイア・ドラゴン』です。挨拶頂きありがとうございます。

 私は丁寧に頭を下げました。

 ファイアドラゴンとは、ドラゴンの中で呼び合う名前のようなものでした。

 レッドドラゴンはファイア・ドラゴンが正式な名前です。

 何度かお話ししましたが。ドラゴンには人間のような名前はありません。

 これが、名前代わりす。

「うむ、まさかファイア・ドラゴン殿とお会いできると思わなかったぞ。さて、我はいかねばならねばならぬ。どこかで呼ばれているようでな。では、失礼する」

 ホワイトドラゴンさんは一礼して、どこかに飛んでいきました。

「……あ、あれ、みなさんどうされました」

 私がホワイトドラゴンさんと話している間、テントの撤収作業をしていたみんなの手が止まり、冷静なはずのジーナとリナまで固まって、咥えていた煙草を落としました。

「リナ、あなたはまだ未成年のはずです。誰ですか、煙草を吸わせたのは?」

 私は笑いました。

 ホワイトドラゴンは、もう絶滅したとされる種族ですが、しぶとい人たちもいるので、そう簡単に姿を消すわけがありません。

 こうして、数は少ないですが、確かに存在するものです。

「あ、あの、エレーナ。サインとかもらっておけばよかったです。迂闊」

 パステルが頭を抱えました。

「バカ、どうやってサインしてもらんうんだよ。全然動けなかった方が問題だって」

 ジーナが苦笑しました。

「はい、恐らく人間は見知らぬドラゴンをみると、恐怖で固まってしまうと思います。あの対応で、敵意がないことは明白だったでしょうが、やはりドラゴンはドラゴンです。もし、光りのブレスを吐かれていたら大惨事になっていたでしょうが、幸い温厚な性格なので、まずありません」

 私は笑いました。

「そ、そうですか、びっくりしました」

 ララが剣の握りに手を掛けたまま、半ば唖然としながらポソッと呟きました。

「大丈夫です。ドラゴンについては、私にお任せ下さい、中には森だけに住むフォレストドラゴンや、砂漠の砂の中に住んでいるサンド・ドラゴンという変わったドラゴンもいます。結構、種類が多いのです」

 私は笑みを浮かべました。

「さて、片付けましょう。おや?」

 濡れたテントを乾かしていると、スタイリッシュで軽快そうな自転車に跨がった人が、フラフラしながらやってきて、私たちの目の前で倒れてしまいました。

「ど、どうしました!?」

 私が声を掛けると、虚ろな目付きで小さく呟きました。

「み、水と食料……」

 私は慌ててテントの片付けを中断するように、みんなに声をとばました。

「マズいです、早く水と食料を!!」

「豆とベーコンしかありませんが、すぐに作ります!!」

 パステルが慌てて片付けそうだったコンロで簡単な料理をはじめ、ジーナが自前の点滴セットを取り出し、地面に倒れた女の子に処置を施しました。

「これで栄養と水分は大丈夫だぞ。この調子じゃ、とても水なんか飲めないだろ」

 ジーナが笑みを浮かべました。

「はい、衰弱が激しいです。落ち着いたら、まだ片付けていないテントに運んで様子をみましょう」

 肩に猟銃を下げたその女の子をみて、私は苦笑しました。

 しかし、これで終わりではありませんでした。

 まだワタワタしているうちに、大きな木箱を背負った女の子が、私たちの脇に止まった。

「あの、不躾で申し訳ありません。私は旅をしている魔法薬師のアメリアといいます。食事をとる予定だった町がなくなっていて、お腹がすいてたまりません。少し食材を分けて頂けませんか」

 その女の子は、自転車から降りて頭を下げました。

「はい、私たちも食材不足に悩んでいますが、ベーコンと豆のソテーでよければ提供できますよ。それで構わなければ……」

「はい、贅沢はいいません。お願いします」

 アメリアさんは頭を下げました。

「分かりました、少し待って下さいね」

 私はできたばかりのベーコンと豆のソテーを、お皿に盛ったパステルに笑みを浮かべた。

「先の方は点滴で対応しています。こちらの方に、食べさせてあげてください」

「分かりました。薄味ですが、よければ……」

 パステルが笑みを浮かべ、アメリアさんに食事を手渡しました。

「ありがとうございます。お礼にその肩の容態を少し改善しましょう」

 アメリアさんは背中の大きな薬箱を地面に下ろし、薬瓶を何本か取ってまだ意識が改善されない女の子に注射を打ちました。

 呼吸が乱れていた女の子が、しばらくして落ち着いた呼吸になりました。

「濃厚栄養剤と睡眠の効果がある薬です。それにしても、ここで噂の旅するレッドドラゴンに出会うと思いませんでした。あの、お願いなのですが、血液を少し分けて頂けませんか?」

 食事を食べながら、アメリアさんが笑みを浮かべました。

「はい、いいですよ。ですが、効果が強力過ぎて、この方のように衰弱しきっている人には使えません。耐えきれずに、かえって悪化してしまう可能性があります」

「それは先刻承知の上です。これを材料にして、新たな魔法薬を作りたいのです。よろしいですか。こんなチャンスは二度とないので」

 アメリアさんがニッコリ笑みを浮かべました。

「分かりました。お役に立てればよろしいのですが」

 私は右手の指先を切って血を浮かばせると、アメリアさんが差し出した試験管にポタポタと落とし、最後の一滴を落とすと試験管に血印を押しました。

「これで、血液が固まってしまう事はありません」

「ありがとうございます。これで、また一つ薬のレパートリーが増えました。それにしても、大きな車ですね……」

 テントの脇に駐めてある私の車をみて、アメリアさんが声を上げました。

「はい、特注です。それより、この方をテントに運びます。積もる話は。それからで」

 私は笑みを浮かべ、眠っている女の子をテント内に移動しました。


 テントに入ると、アメリアさんが率先して冒険者ライセンスを示しました。

「これで結構中堅クラスだと思っているんですよ。これが旅券です」

 アメリアさんが赤い表紙の手帳を見せると、パステルがヒョコッと覗きました。

「んな!?」

 次の瞬間、パステルが声を上げました。

「凄いです。排他的で有名なファンヌ王国の入国審査もパスしていますよ。私もいきたいのですが、なにしろなかなか許可が降りないので、いつか行けたらいいなと思っていたんです!!」

「はい、魔法薬師というだけで入国審査は大分甘くなるんです。魔法薬はどこでも珍重されますからね」

 アメリアさんが笑いました。

「あの、エレーナとアメリアさんに提案です。仲間というか、同道の友として一緒に行動しませんか。今、このパーティには回復を担える者がいません。ぜひ、お願いします」

 パステルがペコリと頭を下げると、アメリアさんは頷きました。

「むしろ、こちらから提案させて頂きたかったのです。魔法薬師は一人いても損はありません。さらにいえば、私は魔法医の資格も持っています。つまり、お医者さんでもあるんです」

 アメリアさんの提案に、私は頷きました。

「では、これからもよろしくお願いします。私の主義で、仲間は呼び捨てにする事にしていますが、これに対して抵抗は?」

「ありません。むしろ、そうして下さい」

 アメリアが笑いました。

「では、アメリア。改めてよろしくお願いします。パステルにお願いです。全員の能力を把握して頂けませんか。本来は私の仕事なのですが、人間の尺度でどうしても計れない部分がありますので」

 私が笑みを浮かべると、パステルは笑顔で頷いた。

「任せて下さい。さっそく聞き取り調査をしますね」

 パステルがクリップボードに紙を挟み、さっそく調査をはじめた。

「それにしても、昨日のハ○晴れユカイが頭から離れません。集中出来ないので、問題ですね」

 私は苦笑しました。


 適温に保ったテント内で、しばらく待つと息も絶え絶えだった最初の女の子が、そっと目を開けました。

「あれ、ここは……」

「はい、私たちのテントです。記憶はありますか?」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、薄らと……。私の名前はアルテミスです。ちょっと用事があって、それを済ませたあと、お腹が空いていたので狩猟をしようと思っていたのですが、どこにも獲物がいなくて……。助かりました」

 アルテミスさんは、そっと身を起こし、軽く頭を横に振った。

「そうですか。それにしても、変わった力を放っていますね。魔力はしょっちゅうですが、どうも違う。失礼ですが、あなたはどこからいらっしゃって、何者ですか?」

「あっ、しまった……」

 アルテミスさんが慌てて力を消した。

「な、なんでもないですよ!?」

「ふーん、爪でも剥ぎますか。ゆっくりジワジワ」

 私は笑みを浮かべた。

「だ、だって、絶対信じないもん。信じないもん!!」

 私は笑みを浮かべ、呪文を唱えた。

 テントの床に光るサモンサークルが描かれ、私は呪文を唱えました。


 ……遙かなる天の彼方に在る者。我らが守護者よ。その姿を顕現し、我が前に立ちはだかりし魔を退けたまえ。

 我が名をもって縁を裂く絶対的な禁忌を破り、我が身と共に栄光の道を駆け上がらんことを。


「召喚、アルテミス!!」

 サモンサークルが光り、豪放磊落な姿をしたアルテミスが現れました。

 実はこれ、いわゆる『神』。混じりっけなしの。

「……なにやってるの。だから、人間のフリをしている時は気を付けろっていったじゃん。これだから、分子体は」

 私が呼び出したアルテミスに、涙目になった起きたばかりのアルテミスがジャンピング土下座しました。

「お、お願いです。消さないで下さい。私はまだを旅したいのです」

「はいはい、我が儘なのは私譲りだからね。エレーナ、コイツも連れていってあげて。分子体だから、例え死んでも私には影響ないし。よろしく~」

 眠っていたのか、大あくびして本物のアルテミスがサモンサークルの中に消えていった。

 アルテミスがいっていた分子体というのは、いわばオリジナルにそっくりな分身の事です。

 神事情はよく分かりませんが、こうでもしないとできない仕事があるようで、アルテミスの場合は最大で十二体作れると、大昔にたまたま出会った時に色々説明してくれて、私の召喚魔法にも応じてくれるという約束を取り交わしていた。

「はい、お母さんがそういっていますので、あなたも連れていきます。分子体のあなたに拒否権はありません。アルテミス本体とマブダチの私の方が立場が上なので」

 私は笑いました。

「……はい、今度は消される」

 アルテミスが小さく息を鳴いた。

 テント内にはパステルとパトラだけ。

 二人とも呆然としていたが、やがて咳払いして二人が動きはじめた。

「まずは、アルテミスの情報をゲットしないと!!」

 パステルがアルテミスにインタビューをはじめた。

「あ、あの、神には禁則事項がたくさんあって!?」

「そこをなんとか!!」

 ……これは、アルテミスが分子体を送り込むとき、極限まで人間に近づけた結果です。

 それでも、神の力は多少は健在なので、困った時に頼りになるでしょう。

 ちなみに、アルテミスは月の女神でもあり、狩猟の神でもあります。

「まあ、これで旅の仲間が二人増えました。もっとも、神は何人ではなく何柱と数えるのですが、極限まで人間にカスタマイズされているなら、人間扱いでいいでしょう」

 私は笑いました。


 復活したアルテミスやアメリアも協力して、大きなテントを片付けると、私たちは車に乗り込み、すぐ近くにあった街道の分岐点を右に折れ、遠回りルートを走りはじめた。

 ちなみに、二台の自転車もちゃんと積んであります。あると便利だと分かっていたからです。

 しばらく進むと、私は気配を感じて車を止めました。

 車から降りてしばらく待つと、ゴブリンたちとオーク、オーガで混成編成された魔物の大軍が押し寄せてきていました。

「……フン」

 私は呪文を唱え、派手な爆発を起こす攻撃魔を放ち、ジーナが重機関銃を連射しはじめました。

 アルテミスが結界を展開し、荷台から飛び下りたララが厳しい目付きになりました。

 剣をすらっと抜き、小さく呪文を唱えて電撃が走る刀身はバリバリと激しい音を立てていました。

「秘剣、サンダースラッシュ!!」

 ララが剣を大きく振ると、草原に黒焦げを残しながら、魔物の大軍を左右に分散させました。

 こうなると、私もやりやすくなります。

「ジーナは向かって左、私は右!!」

「分かってる!!」

 ジーナの補助をしているリナも時折派手な攻撃魔法放ち、私とパステルはひたすら攻撃魔法を放ちました。

「ウジャウジャといますね。乱打します」

 ララがガンガン魔法の刃を飛ばし続け、百体近くとみた大軍は急速に数を減らしていきました。

 これならなんとかなると思った否や、チャンスとみたか気配もなく間近にグリーンドラゴンが三体降りてきて、他には目もくれず私を集中攻撃してきました。

「邪魔!!」

 私は中央の一体のお腹にフルパワーの拳をめり込ませ。吹っ飛んだその隙に残った邪魔な二体にパンチを入れて一時的に黙らせ、荷台に固定しておいたドラゴンスレイヤーを取りだし、倒れて悶えている中央の一体のお腹を裂いて、トドメに首を撥ねました。

 残り二体はすぐさま立ち直って、私にかぎ爪攻撃を仕掛けてきましたが、私の竜鱗はその程度では傷一つ入りません。

 私は二体のグリーンドラゴンを両手で掴み、魔物の大軍のただ中に放り込んで、強烈な攻撃魔法を放って、周辺の魔物ごと蒸発させました。

「パステル、大丈夫ですか?」

 もう大分迫ってきていた魔物の大軍と切り結んでいるララの背後で、肩で息をしているパステルに声を掛けました。

「はい。でも、正直しんどいです」

 そこに、すかさずアメリアが薬瓶を取りだし、パステルに手渡しました。

「魔力回復効果があります。生命力の回復と等しいので、疲労も吹き飛ばしますよ」

 アメリアがニッコリすると、パステルは薬瓶の中身を飲み干しました。

「……苦い」

「はい、エレーナには申し訳ないのですが、ドラゴンの肝を使っていますので、どうしても苦くなってしまうのです」

 アメリアが笑った。

「……あの、私の肝は取らないで下さいね」

「当たり前です。心配は無用です」

 アメリアが笑みを浮かべた。

「あっ、回復してきました。疲労も消えて、これならまだ戦えます!!」

 パステルがたちどころに復活して、また機関銃のに小爆発を起こす魔法を乱射しはじめた。

 しまいには、魔法をやめてショートソードを抜き、ララと並んでガンガン敵を斬りはじめました。

 時間にして数時間、魔法による遠距離攻撃も間に合わないほどの大軍だった魔物の群れをなんとか片付け、それぞれが傷を負ったで私たちは笑いました。

「さて、冒険者らしい顔つきになりましたね。でも、私たちは女の子です。傷は治しておかないと……」

「はい、待っていました!!」

 アメリアが私たちに薬瓶を配り、それを飲むと体が少しむず痒くなり、傷は綺麗に治ってしまいました。

「効果抜群ですね」

「はい、これが専門なので。ところで、ララさん。右腕に深手を負っていますね。古傷のようですが、後遺症は残っているはずです。よく剣が振れるまで回復しましたね。あの、今日はここでテントを張りませんか。みなさんの診察をした方がよさそうです。パステルさんも脇腹に、ジーナさんは全身いたるところ、リナさんもですね。私は魔法医の資格もあります。今のうちに、治してしまいましょう」

 アメリアの提案に全員が頷き、まだ少し早い時間でしたが私たちはテントを張ろうとしてやめました。

「思い出しました。食材の補給ができていません。もう少しで町なのですが、そこで補給をしてからでいいでしょう」

 パステルが笑みを浮かべた。


 そのまま進んでいくとすぐに町に到着し、門の上の青旗を確認してから街中に進むと、それなりに賑わっている感じでした。

 町の入り口で用向きを聞かれたので、買い物と答えたところ、そこら中に誘導員が立ち、私たちを大きマーケットに案内されました。

「私は待っています。買い物を済ませてきて下さい」

 マーケットの広い駐車場に車をを駐めて、私は笑みを浮かべました。

「はい、分かりました。みなさん、いきましょう」

 パステルが先頭を切って、みんながマーケットに入っていきました。

 店先に『冒険者向け。ライセンス提示で三割引』と書かれていたので、安心して買い物ができるはずです。

 しばらく待つと、カートに山ほど食材を入れた一団が帰ってきて、空間ポケットや荷台に荷物を載せはじめました。

「肉も買いましたが、魚がいい感じの値段だったので購入してきました。今夜は魚にしましょう」

 パステルが笑った。

 体格が小さめで苦労している様子のララを腕で示して、荷台で一人ぼんやりしていたアルテミスの頭を引っぱたき、私は顎でとっとと手伝いに行けと指示を出しました。

 アルテミスが慌てて飛び下りて、荷物運びを手伝いはじめ、少し作業がはかどりはじめました。

 ちなみに、世間では少しでも魔法の心得があれば、まず真っ先に作るのが空間ポケットの魔法と相場は決まっているようですが、確かに便利です。

 こうして物資を補給した私たちは、駐車場から車を出し誘導に従って町の外に出ました。 

 途中で派手な戦闘があったため、かなり時間をロスした事とアメリアの診察があるため、私たちは早めにテントを張ることにしました。

 汗をかいたので、前と同じ要領でお風呂も作り、ちまちま脱衣所を作っていると、テントからアメリアが出てきました。

「すいません、治療にドラゴンの血が多めに必要なんです。協力をお願いします」

「分かりました。これが終わったらすぐにいきます。もう少しなので」

 私は笑みを浮かべ、手早く脱衣カゴを並べて屋根を閉じ、テント内に入った。

「どうですか?」

 テント内に入ると、みんなが仰向けに寝た状態で、上半身だけ裸になって待っていました。

「あの、この針が一番太いのですが、入りますか?」

 点滴方式にするのか、アメリアが注射針を刺しだした。

「うーん、これでは竜鱗で折れてしまいます。作りましょう」

 私は呪文を唱え、創成の魔法で巨大で硬質の針を作り、それを手の甲の血管に挿しました。

 太いチューブをクリップで留めておいたので、大出血にはなりません。

 あまりの事だったか。アメリアが目を丸くしてしまいました。

「これでも静脈ですよ。血管が太いのでこれくらいでちょうどいいです。さっそくはじめて下さい」

「そ、そうですね。血圧いくつなんだろ。これは、装置を作らないと危ないですね」

 ブツブツ呟きながらアメリアが空間ポケットから様々な器具を取りだし、私の血管に繋がっているチューブを瓶のようなものに溜め、ここから血を流し込む様子でした。

「まずは……」

 一番重傷と診察したらしく、ララの右手に瓶から伸びた人間用の細いチューブを引き、注射針を刺した。

 その後は呪文を唱え、ララの体が光りはじめると、瓶の中に溜まっていた私の血液が見る間に吸い込まれていきました。

 光りが収まると、ララの右腕にあった深い傷は綺麗に消え、本人はポカンとしていました。

「私の魔力だけでは足りなかったので、エレーナさんの血液の力を借りました。もう、自由に動くはずですよ」

 ララが起き上がって右手を振ると、少し涙を浮かべました。

「この傷のせいで、思うように剣が振れなかったのです。だから、なんども捨てられて……これで、大丈夫です」

 ララの言葉に私は笑みを浮かべました。

 こうして、全員の傷の治療を終え、テントの外は夜闇に包まれていたのでした。

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